第63話
【2】
生ハムとチーズとレタスのサンドウィッチをバケット2本分仕上げ、大皿盛りしてテーブルに置いた。
小皿を並べながら、キララが居心地の悪い沈黙を破った。
「ちょっと多過ぎっぽい?(笑)」
「平気平気! 今日は私俄然食べられそうだから(笑)」
大袈裟に乾杯して、早速遅い夕食を始める。
「キララ〜! 居るか〜!」
珍しく底抜けに明るいアーロン博士とエレナ博士が入ってきた。
手には缶ビールを数本と紙袋を抱えている。
考えることは皆同じらしい。
「おぉ〜! 始めてる始めてる!」
「おや御両人! 待ってました!
丁度今始めたところですよ。
これで皆揃った!
いつも通り報告会が出来ますね」
「今日ぐらい祝いの会で良いんじゃないの」
「いやぁ、そうしたいところなんですけど、ちょっと報告したい事態になってまして………」
「あら?
アンドロイド達は何処に居るの?」
「そうなんですよ。 そこなんです」
「なるほど………」
「とは言え、様子を見ましょ!
騒ぐわけにもいかないし、取り敢えず戻るのを待つしか無いわ」
そういうソフィアも、さすがにアルコールにはあまり手をつけないようにしている。
シラフで居る必要を感じているのだろう。
エレナ博士が紙袋からスナックや燻製等を取り出し、ケースを破ってテーブルに並べた。
それぞれに配られた缶ビールの栓を抜き、改めて4人での乾杯をしたけれど、誰もビールには口をつけなかった。
他愛ない世間話に興じながら、心は皆重くなってきている。
あと数分で日付が変わろうとしていた頃、ポクポクと蹄の音が聞こえてきた。
ケンタウルスとパンが帰ってきたようだ。
先にポロンが燕のように入ってきた。
ケンタウルスとパンは一足遅れて到着。
3人は池の畔に固まり深刻な表情で何か話し始めた。
キララは立ち上がってドアを開け、声をかけた。
「おかえり………」
3人はビクッとして
「あっ、ただいま」
と言いながら小屋の中を覗き、改めて皆が集まっていることに驚いた様子で顔を見合わせた。
「皆さんいらしてたのね………」
「そうよポロン。
ワームホール有人飛行の成功に乾杯してたの」
見ると、ポロンもケンタウルスもパンも、憔悴した人間のように
「3人とも一緒にお祝いしない?」
「私達は飲むことも食べることも出来ないし………」
「そんなこと別に構わないわよ。
ただ一緒に楽しみましょ!」
と言いながらキララは『しまった!』と思った。
アンドロイド達は遠慮しているわけでは無く、憧れの飲んだリ食べたりの中に入るのが苦痛かもしれないと感じたのだ。
「無理強いはしないけど、良かったら加わって!」
アンドロイド達は一様にホッとした表情をした。
「ところで何処へ行ってたの?」
キララは何気無く聞いてみた。
「ちょっと遊びに………」
慌てた様子も無くポロンは答えた。
「3人揃って?」
「えぇ。 私が時々行ってるラボとか……」
ポロンはそう言ってキララの顔を覗き込む目をした。
ポロンがラボ巡りをしていることを敢えて隠さずに話し、こちらの様子を窺っているのかもとキララは思った。
その時キララは突然ポロンの微かなエネルギーをキャッチした。
しかしそのエネルギーは直ぐに消えた。
そして再び表れ、また消えた。
エネルギーの中にキララが瞬間感じ取ったのは『情報』だった。
内容を解明するには至らなかったけれど、ポロンがある情報をキララに伝えようか否か迷い
ブロックしていた情報かもしれない。
「ポロン、何か悩んでる?………」
ポロンは、キララの視線から目を逸らして、暫くじっと考えている様子だった。
その間、例のエネルギーは出たり入ったりを繰り返していた。
キララは今無理に引き出さない方が賢明だと感じた。
「いいわ。 今は無理に言わなくて良い。
でも話したくなったら、いつでもどんな事でも話してね」
ポロンは珍しく泣きそうな表情でキララの瞳を見つめながら頷いた。
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