第60話
【2】
スウィンは出発に向けての準備に入った。
夕食の会合だけは毎日欠かすこと無く続けていた。
明日から8月という日、出発までの2週間弱そしてワームホール飛行に旅立ってからの1週間、このまま穏やかに何事も無いよう神が居るなら祈りたい気持ちだった。
スウィンはワームホール飛行の失敗は全く考えていない。
頭も心も成功以外の結果を拒絶している。
センターが、いや地球がこの状態の今、失敗は絶対許されない。
必ず成功させ、1週間後必ず戻る!
それしか考えないことを肝に銘じていた。
だからこそ、船の最終チェックを始め、スタッフとの入念な打ち合わせや関係づくり、自分自身のコンディション調整に集中した。
スウィンがキララの部屋に行く余裕を失っていたので、キララの方からぶらりと船へ遊びに来た。
「たいへん?」
「いや、楽しいよ!
人類初だし、僕自身が開発して乗り込むんだからね。
興奮するよ!」
「いよいよね………」
ふと見せたキララの孤独な表情が、スウィンに現実の全てを思い出させた。
ーーーーー旅立っている間、キララは自分の全てを知ることになるかもしれない………
そして、今の穏やかな状態が一変するかもしれない………ーーーーー
スウィンは突然不安に襲われた。
「不安?」
「キララは?」
「大丈夫よ。 私は大丈夫!
何があっても大丈夫な気がするの」
「そう………
1週間後、必ず無事に戻る!」
「約束よ!」
「あれ? 約束を信じてくれるの?」
とキララをからかったスウィンは直ぐに後悔した。
キララは涙ぐんで居たのだ。
スウィンはそっとキララをハグして、柔らかい金髪を撫でながら囁いた。
「1週間なんてアッという間さ……」
キララはスウィンの胸に顔を埋めた。
小刻みに震える小さな肩………
Tシャツ越しにスウィンの胸を湿らすキララの涙は、スウィンの心にも奥深く染み込んで『離れたくない』と盛んに訴えてくる。
スウィンも同じ思いだった。
二人はようやくお互いの、そして自分自身の気持ちに気づいた。
それからは毎日キララがスウィンを訪ねた。
スウィンもそれを心待ちにした。
周囲もスウィンとキララの変化に気づき、微笑ましく見守っていた。
「やっと気づいたかスウィンの奴!(笑)
いつまでキララを待たせるのかカウントしていたんだけど(爆笑)」
と、ソフィア。
「男の子は自分の気持ちに気づくのが遅いからね(笑)」
と、エレナ博士。
それぞれ照れ隠しに勝手な解釈ばかりしているが、内心は最高な成り行きを心から喜んでいた。
あとはスウィンとキララの無事を祈るばかり。
キララのことは、スウィンの為にも此処で守り抜くと皆が誓った。
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