第61話
【2】
2180年8月12日
いよいよワームホール有人飛行出発の当日。
スウィンはキララに対する新たな責任感と情熱も加わり、一段と精悍さが増している。
全ての女性スタッフが、そんなスウィンを憧れの眼差しでポーっと見つめる程。
船に搭乗する直前、ソフィア、両親とハグしたスウィンは、最後にキララをしっかりとハグして暫く目を閉じ、自分の中へキララを取り込むように固く抱き締めた。
「必ず戻る!」
「待ってる!」
スウィンはキララを放すと直ぐ表情を引き締め
他の乗組員達が船の入り口前で挨拶している中を通り抜け、1度も振り返らず船内に消えて行った。
スウィンが負った責務の重さとこの地球への心残りを、その
ワームホール有人飛行船は遂に旅立った。
船は光速の60%まで出せる。
重力等の影響を考慮して、ワームホールを造る前に太陽系から離れなければならない。
その為、最大速力でまる一日移動してからの本番となる。
目的の停泊空間に着いてからの滞在が1週間でも、往復時間を含めれば9日〜10日ということだ。
キララもまた、飛行の失敗や事故等は一切頭から追い出していた。
ただ、会えない時間がとても長く感じて溜め息をついた。
ソフィアが慰める為にキララの肩を抱き寄せた。
「アッという間よ!
明日の今頃、ワームホールに入る前に連絡を発信する予定だから、夜までには此処に届く筈よ。
あとは、あちらに到着して直ぐ、ワームホールが消えるまでの数分間に到着の報告を寄こすことになってるわ。
だから明日の夜は2回スウィンの声が聞ける!
帰りも同じ。
ワームホールの中からと、出て直ぐ通信をくれる予定。
大丈夫!
スウィンは貴女の為に全力で戻ってくる!」
キララは、消え入るような微笑みを浮かべ、ソフィアの肩に頭をもたげた。
ソフィアもそれに応えて肩を抱いた手に力を込めた。
「愛する人が出来ると強くなるものよ。
キララもそうでしょ」
キララは頬を染めて何度も何度も頷いた。
翌日スウィンからワームホール突入の報告が発信された頃、キララは自分の部屋の前で発信装置を握るスウィンの繊細な手や穏やかな愛しい声を思い浮かべながらベンチに腰掛けていた。
「寂しいですか?」
ケンタウルスだった。
「そうね………
アナタは寂しさを知ってるの? 言葉としてでは無く実感として」
ケンタウルスは少し考えるように俯いた。
「最近分かるようになった気がします。
これを実感と言うのでしょうか?………
キララが旅に出ている間に備わった感情機能かもしれません。
キララが居なくて、とても寂しかった………
パンもポロンも………」
「まぁ………」
傍らで二人の話を聞いていたパンも人間のような深い微笑みを浮かべ、美しい癒しのメロディを奏で始めた。
ーーーーー人間には『忘却』が有る………
しかしアンドロイドは、全ての記憶がそのまま何の欠損も無く保存される。
削除されない限りは。
削除されてもデータはいつでも引き出し可能だ。
そんなアンドロイドが悲しみや苦しみや寂しさを『実感』出来るようになったら、あまりに悲惨ではないか………ーーーーー
キララはケンタウルスをハグして囁いた。
「そんな機能捨てた方が良いわ」
ケンタウルスは優しくキララの背中を撫でた。
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