第59話
【2】
それからは、出来るだけ誰かがキララの部屋で過ごす時間を作るようにした。
夕食は毎日5人一緒の場を取り、それぞれの報告会となった。
ポロンは警戒しているのか、あまり部屋から出なくなっている。
かと言ってキララを
比較的穏やかに、どちらかと言うと安心している様子だった。
ある日キララはポロンに聞いた。
「ポロン、アナタは人間になりたいと思ったことある?」
ポロンは暫く黙ってキララの瞳を見つめていた。
それはキララを探るものでは無い。
ただ純粋に『何故?』という問いかけの眼差しだった。
間を置いてようやくポロンは答えた。
「えぇ、あるわ。
人間になりたいと今でも思う………」
その表情は悲しげでも寂しげでも無く、深い虚しさが漂っていた。
ーーーーーポロンの精神は成熟した人間の域に達しているーーーーー
キララは一人頷いた。
「キララは?」
ポロンが問うてきた。
「私は人間よ」
ポロンは慌てて俯いたが、すぐ付け足した。
「アンドロイドになりたいと思ったことはあるか?って意味よ」
それが言い訳でしか無いことをキララは分かっていた。
ーーーーーポロンは私の真実を知っているーーーーー
キララは呆然とそんなことを考えながら、ポロンの問に答えた。
「そうねぇ……… ポロンみたいに飛べたら良いな、なんて思ったりすることはあるわ。
でも人間であることを失いたくは無い。
些細なことを言えば、食べること一つだけでも失ったら、生きる楽しみや支えが大きな割合で無くなるわ」
「食べることってそんなに楽しいの?」
「えぇ! それはもう!
病気や障害で食べることが出来ない人、制限されている人も大勢居るけど、そういう人の強さには敬服するわ。
本当に尊敬する!」
そう言いながらキララは『食欲』を知らないアンドロイドの感情って、感情と言えるんだろうか? と悲しくなった。
「じゃぁ、人間になったらまず最初にすることは食事ね!」
「その次は排泄!(爆笑)」
二人で大笑いした、
ポロンも心から楽しそうだった。 人間のように。
ーーーーー確かに私は食べることが出来る。
完全なメカでは無い。
私は……………いったい何もの?………ーーーーー
キララは改めて自分に対する不信を強くした。
一方スウィンは『キララに全てを話す』ことの必要性と、今がその時期かもしれないことをソフィアや両親に説明した。
「確かに、ここまで来た以上話すのがベストかもしれないわね。
キララが自分を知ることで『繋がり』の解明を促せる可能性は大きいし、何よりキララ自身の為にもね……
あのまま、自分や私達に不信を抱き続けるのは決して良いことじゃ無いわ。
キララの精神が崩壊し兼ねない。
新たな繋がりの妨げにさえなるかも………」
「キララを存在させ育てた、言わば親としてはどう思います?お父さんお母さん」
「………………話すべきかもしれないな……………」
「そうね。
でも、そのタイミングと言葉は慎重に選ばなければならないわ。
そして、話すのは私達。 ……………私達しか居ない。
……………もう少し様子を見させて」
「えぇ、じっくり様子を見ましょう。
お父さんとお母さんが『今!』と感じた時に………」
「分かった………」
アーロン博士もエレナ博士も深い深い溜め息をつき、暫く
それからのアンドロイド達はとても静かで、それに伴いキララも安定し、キララに真実を話すことも無く、何か問題が有っただろうかと全てを忘れてしまうくらい穏やかに日々は流れ、いよいよワームホール有人飛行第1段の出発日が近づいてきた。
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