第56話
【2】
キララの希望で、
キララは出来るだけ自然とコミュニケーションをとろうとしている。
恐怖に惑わされまいと必死なキララを、スウィンは本当に『強い』と思った。
ーーーーーキララはメカと自然という2極の両方を救おうとしている。
この優しさは『強さ』に裏打ちされた真のものだ。
両方の理解が出来るということは、現時点に於いては苦しみでしか無いのかもしれない。
メカと同様人工の産物でありながら、生の人間として生きる者の宿命なのか………
いつか有機と無機の統合を出来る日が来るかもしれない。
しかし、そんなことが許されるのは『神』だけだ。
両親は神を造ってしまったと言うのか………?
まさか!
ただ、キララの献身ぶりに、単なる優しさとは言えない崇高なものを感じることは確かだーーーーー
キララは休憩の時、必ず外に出ていた。
スウィンも常に見守った。
恐怖に震えながら、自然やアンドロイド達と意識的に交わり、その者達の叫びや悲鳴や嘆きを聞き、受け止めることを続けている。
少しづつ、キララの方からも発信出来るようになってきていた。
具体的な言葉では無いが、ちゃんと訴えを受け止めていると伝えているらしい。
そうして、キララも次第に落ち着き出した。
恐怖は前にも増して強く深くなっていたようだが、キララは動じなくなっていた。
キララ自身の恐怖であると同時に、自然やメカ達の恐怖であることもキララを支えている。
途中でキララは出来る限り寄り道をしてくれるようスウィンに
スウィンはキララ自身のことを心配したが、キララはセンターへの報告前に、より理解を深めておかなければならないと感じていた。
キララの様子は日に日に成長を感じさせた。
とっくに子供は卒業し、もはやスウィンをさえ飛び越えた精神性を宿しているのではないかと感じるような表情を見せることもあった。
スウィンはそんなキララを冷静に見守り続けた。
センターに辿り着いたのは6月に入ってからだった。
スウィンは旅の途中敢えてセンターには連絡しなかったので、皆驚き喜んでくれた。
ただメカ人達が、おしなべて無表情なのがスウィンは気になった。
キララからメカ人のことも聞いていたから気になり出しただけで、以前からあまり表情の無い連中だと潜在的には感じていたけれど、キララの話を前提に考えれば、無表情は危ない兆候とも言える。
しかも、やはり同じ前提で、彼等にとって二人の帰還はあまり歓迎されないかもしれないのだ。
二人は取り敢えずソフィアの所へ行った。
挨拶しながらソフィアはキララの異変を感じ取ったようだった。
「キララ、お帰りなさい。
詳しい話を聞かせてね。
スウィン、御苦労さま!
御両親のラボには行ったの?」
「これからです。
できればソフィアにも同席して頂きたいんですが。
大切なお話があります」
「了解! すぐ行きましょ!」
「その前にちょっと確認したいんですが、以前ワームホール飛行に関するオフレコの話を………」
「えぇ、あの話を貴方に伝えたことは貴方の留守中御両親にも話してあるわ。
だから何を話しても大丈夫よ」
「良かった!
あのことにも関わる話になると思うので、僕からソフィアにお願いしようと思っていたんです」
「そのへんは抜かり無いわ」
ソフィアはある程度予期していたのかもしれない。
スウィンはエレナ博士に連絡して、アーロン博士を呼んておいてくれるよう伝えた。
3人は早速エレナ博士のラボに行った。
ラボの入り口でアーロン博士に出会った。
「お〜!若者達! 旅は楽しめたかい!(笑)」
「只今戻りました」
「キララ、スウィンは足手まといにならなかったかな?(笑)」
「足手まといは私の方です。
スウィンには支えて頂いたり助けて頂いたりばかりでした」
「いや僕が足手まといだったのは確かかもしれませんよ(笑)
キララには多くを学ばせて頂きましたから」
「そのようだな………」
アーロン博士はキララをじっと観察しながら思慮深く微笑んだ。
3人の声を聞きつけてエレナ博士が迎えに出てきた。
「まぁ、キララ! スウィン! お帰りなさい!」
エレナ博士もやはりハグしながらキララの異変に気づいたようだったが、気づかぬふりを通していた。
「さぁ、どうぞどうぞ!」
エレナ博士に促されて、4人は直接応接スペースに入った。
それぞれ好きな椅子に座って一息つく。
エレナ博士は世間話をしながら紅茶を入れて、皆に渡した。
スウィンは、お茶うけに出されたスコーンを一口とミルクティを3分の1程飲んでから話を切り出した。
「これから、旅でキララに起きたことを本人に話してもらうのですが、この話が最終的な結論ではありません。
再度此処でのキララの状態を暫く観察する必要があります。
ただ場合によっては、我々が成すべきことを早急に決定し、迅速に動く必要に迫られることを覚悟すべき時が近いのは確かです」
全員に緊張が走った。
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