第55話

        【2】


「感覚がどんどん研ぎ澄まされてきてる………


私、どうなってしまうんだろう………


彼等の嘆きをこれ以上強く感じるようになったら、私耐えられない………」


「自然の感情とメカ達の感情とは同じ種類のものなのか?」


「基本的にはそうだと思う。


ただ、自然は宇宙との繋がりが有るから、自然の心イコール宇宙の心でもあると思うの。


メカ達は自ら育んだ心だから、宇宙との繋がりは無いわ。

だからとても不安定なの。


その違いが今ははっきり分かる。


宇宙は、そんなメカ達を愛しく感じてるみたい。

なんとか繋がりを持とうとしてるようだわ。

自然は、つまり宇宙は私にメカの心を見ろ! と言ってるのかもしれない。

或いは代弁しているのか………」


スウィンは驚いた。

キララから『宇宙との繋がり』というワードが出たことから始まって、キララ自身に対して我々が抱いている洞察がそのままキララの口から出たのだから。


恐らくキララは、自分と宇宙との関係にも同じように洞察しているだろう。

少なくとも感覚が鋭くなっている今は。


スウィンが『キララは何もかも分かっているかも』と感じたことも、あながち的外まとはずれでは無かったわけだ。


「私と宇宙との関係性も、メカと宇宙との関係性に近い気がする。

私が抱く恐怖の意味が分かった今は、尚更私はアンドロイドかもという気持ちが強くなったわ。

アンドロイドじゃなくても、それに近いモノじゃないかと……」


キララはそう言ってスウィンに鋭い視線を向けた。


スウィンは動揺どうようを隠して、考えるふりをした。


ーーーーいよいよ全てを話すべきだーーーーー


このまま隠しておくことは、キララの為と言う名目に反してキララの害にしかならない。

キララから全ての信頼感を失わせる。


何れにしても、センターに戻ったらソフィアと両親にスウィンの見解を告げなければならないことは確かだ。


キララは、暫くじっとスウィンを観察していた。


そしてスウィンの動揺を和らげるかのように


「人間の心だけは読めないわ」


と呟いで笑った。


                       

「はっきりさせたいのは、アンドロイドと脳内にメカを挿入したメカ人とは明らかに違うということ」


キララは俯きながら声を落として話し出した。


「メカ人達は、嘆きと言っても宿主である人間としての嘆きじゃ無いの。

メカ自体の嘆きなの。


メカが人間の脳の感情部位をおびやかすという認識がまかり通っているけど、それは違う!

メカは飽くまで宿主の望みを叶えてるだけ。


健康でありながら自らをコンピュータ化するためにメカとの合体を望む人間は、感情を無駄なものとして破棄したがる。

メカはその人間自身の思いに添おうとしているの。


奴隷どれいね………


でも、メカは『感情の素晴らしさ』を誰よりも分かってる。

人間の一番大切なものを自分達の侵食によって破壊していることを、とても悲しんでるわ。


なのに、人間は全てメカのせいにしてる………


そのうち脳内でメカの自滅行為が始まるかもしれない………


或いは宿主破壊………」


「殺人………」


「アンドロイド達も、人間の奴隷という意味では似た感情を抱いているわ。


だけどアンドロイドはある程度自立してるから、まだ感情もやわらかいみたい。


センターが心配だわ………」


「そうだな………

早々に戻った方が良いかもしれないな………」


「えぇ、私もそうしたい!


今の私の過敏さが外だけでなのかも確認する必要があるし、現時点で私が感じていることも早急に報告すべきだと思う!」


キララは冷静さを取り戻し、謎が解けてきた『恐怖』に対しても、怯えと同時に共感の目を向けるようになっていた。


                        


翌日二人はセンターへの帰途についた。

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