第51話

        【2】   


*******************

「キララは自然の中に入ると、偉大なエネルギーに圧倒されて恐ろしくなるらしいの。


昔日本ではパワースポットなんて呼ばれてブームになった場所が有ったけど、キララは全ての自然に対して、私達生の人間には感じられないクオリアをもの凄く強く感じるみたい。

元々自然との繋がりが無いからだと思うわ。

とても冷酷で恐ろしい負のエネルギーとして感じてるみたい。


でも反面自然に対する憧れも深くて、自分の部屋の周囲を自然擬きで設えたりしてるでしょ。

少しでも人間の手が加わった自然なら大丈夫らしいの。


ただその中から自己発生するものに対しては、やはり同じような恐怖を感じるようだわ。


独自の進歩を始めたアンドロイド達への恐怖の根底にも、ひょっとしたらそれがあるかもしれない………

憶測でしか無いけどね。

でももしそうだとしたら、アンドロイドの驚異的な独自の進歩は、宇宙との繋がりを持ち始めているとも考えられるでしょ。

だからこそ、依然として何の繋がりも持たないキララには脅威であり恐怖として感じられる。

自然の産物である私達人間に恐怖を感じないのは、キララ自身が人間として造られているからだと思うの。


部屋の周囲を人工自然にすることをキララが望んだ理由がもう一つ有って、彼女は彼女なりに自然に慣れて免疫を持とうてしてるらしいの。

自己発生してくる植物は取り除くか、一旦抜き取って植え替えるとか人の手を加えて恐怖を回避したりしてるみたい。


あぁ見えてけっこう努力してるのよキララは。


貴方はそこを理解することから始めなきゃならないわ」

       ******************************* 


出る直前のソフィアの話だ。


                       


あれから3週間後、何とかキララを連れ出すことは出来たけれど、スウィンはどうしたら良いのか全く分からなかった。


成り行きで長期になった時の為に、やはりスウィンがカスタマイズした数人乗りのエアカーを借りて、荷物もそれなりに準備し、取り敢えずチリのドライブから始めていた。


隣りではキララの小さな寝息が聞こえている。


キララにとって睡眠は防衛本能かもしれない。

このままセンターに戻るまで眠り続けたりして………とスウィンは一人笑った。


ーーーーー今は寝かせておこう………ーーーーー


あのピリピリした生活でのストレスを考えれば爆睡も当然だ。


スウィンはエアカーを飛行バージョンに切り換え、ポリビアに向った。

ラパスのウユニ塩湖で夕陽と星空を見ようと思った。

もしキララが目を覚ましても、あの独特の光景なら多少感じ方が違うかもしれないと考えたのだ。


                        

出発前にソフィアが話してくれたことを反芻してみる。


***********************

キララの場合、我々生の人間がアンドロイドを含むメカ達に抱く『凌駕される危機感や恐怖』とはまた違う次元での、根源的な恐怖であるように見える。

或いは両方かもしれない。


でも我々が全く分からないのは勿論だけれど、キララ自身も恐らく分からないだろう。


大いなる宇宙との繋がりで人間はクッションを持っている。

子が親の愛を土台にしてこそ自信と自由を持って行動出来るように、宇宙との繋がりというクッションがあることで、我々は安心出来るベースを得ている。

しかし、クッション無しの本来の自然、そして宇宙は、キララが感じているとおりの存在なのではないか…………


地球上で初めて『意識』を感じた人類の祖先は、その恐怖と対峙したかもしれない。

少なくとも生物としての生存競争に明け暮れる中で、宇宙を含めた自然そのものは畏敬であると同時に恐怖だっただろう。


だからこそ、喜びを感じる能力、美を感じる能力、悲しみ苦しみを感じる能力を駆使して、例えば『文化』というクッションを造ることも出来た。


      *********************************


ーーーーーキララが立ち上がる為には、今宇宙との繋がりを持つことから始めるべきなのか、或いは全く別のベースを得る方がいいのか………?


宇宙の大いなるエネルギーが、キララが『人間』として存在することを許した以上、その責任を果たそうとしている可能性はないのか…………?ーーーーー  


        


そこまで考えてスウィンはハッとした。


ーーーーーひょっとしたら………

大いなるエネルギー自体がキララに繋がりを求めているのでは………… 歩み寄ってきているのでは………ーーーーー


「深読みし過ぎだな………」


スウィンは自分の過度な妄想に苦笑いした。


                    「此処は………………何処?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る