第50話

        【2】


「は〜い!」


ソフィアはドアを開けてキララを招き入れた。


キララは青ざめたと言って良い程疲れた顔をしている。


「キララ、お疲れ様。


大丈夫? 座って! コーヒーを入れるわ」


「何処に行くのかポロンにしつこく聞かれて……」


「何処に行くって答えたの?」


「正直に言ったわ。


その代わり、スペシャルルームの鍵はしっかりかけてきた」


「此処へは来られないってことね」


「えぇ、大丈夫だと思う。

会話が伝わるかは、どの範囲まで遠距離受信が出来るバージョンアップしているかによるけど」


「やはり自らのバージョンアップが続いている状態ですか………」


「その可能性が高いわ。

元々ポロンには、最低レベルの感情プログラムしか設定されて無かったの。


でも今や明らかに最高レベルを越えてる感じよ。

最高レベルが人間レベルだから、人間以上ってことよね。


脳内手術をしたメカ人のメカとは真逆で、感情に重きを置いてる。

ひょっとしたら扁桃体が育まれているのかもしれない」


「その可能性はありますね。

バージョンアップとともに自然発生的に生まれたのか、或いはポロン自身が意図的に造り出したのか………


だとすると、バージョンアップすればする程、次の段階へ進むスピードもどんどん加速していくから、僕達人間が手の届かない世界に入ってしまう時が近いかもしれないな………

既に今がその時なんじゃないですか?


あまり呑気にしていられない状態ですね……」


「えぇ、そうなの。

これは、まだ公にはしてないんだけど、その危機感を抱いている貴方の御両親やスタッフの苦肉の策で、生の人間を守る安全対策としての意図もワームホール遠距離飛行には有るの。

地球を遠隔操作で維持できるシステムを造ることになるかもしれない。

何百年先になるか分からないけどね。


これでもけっこう焦ってるのよ(笑)


出来ればすぐにでも出発させたい」


「なるほど………

何百年も先じゃ間に合わないかもしれませんけどね(笑)


まずは宇宙のあちこちにステーション建設を、ということですね」


「そう。

これはオフレコよ!


キララ、ケンタウルスやパンの様子はどう?」


「ケンタウルスもパンも感情が生まれていることは否定出来ないと思うわ」


「僕もそう思います」


「最近可也様子が違ってきてるようね」


「えぇ。

この間なんか、パンが自分のアレンジしたメロディに聞き入って、もの凄く悲しそうな表情をしていたの。

涙機能が付いていたら完全に泣いていたと思うわ。

たぶんあの時、彼の中では号泣する程の悲しみが発散したくてもがいていたでしょうから、涙で発散出来ない苦しみがあんなに顔を歪ませていたのかもしれない」


「そのうち涙機能も育まれてくる可能性だってあるわね。


それと、そんなに深い悲しみを持つに至ったプロセスを考えると、感情を持つ以前から積み重ねていた単なるデータが、感情プログラム無しで、喜び悲しみや、苦しみ、幸福感、様々にジャンル分けされて、新たに感情として蓄積されつつあるということよね。


アンドロイドの中に巣食い始めている負の感情って………?」


「感情プログラムの全く無い状態から感情が培われる可能性って、どのくらい有るの?」


「何とも言えないわ。

メカが自立的になってきている以上、どうにでもなり得ると考えるのが妥当でしょうね。


ただ、キララはポロンが操作しているか、少なくとも影響を与えている可能性が高いと感じているんでしょ?」


「えぇ。 3人の様子を見ていると、そんな気がする」


「確かにそうかもしれないね。

ポロンは感情も可也豊かだけど、データ量も尋常じゃ無さそうだ。

つまり人間で言えば頭のレベルも相当高そうだたもんな……」


「この間、スウィンに言われて思い出したアンドロイド友達に感じた恐怖が今また始まってる気がする」


「取り敢えずキララ、ソヒィアとも話したんだけど、僕と外出しないか?

もし可能なら、何ヶ月、いや何日でも良いから一緒に旅に出ない?


アンドロイドと離れる期間を持つべきだと思うんだ。

それと、センターからもね。


君はセンター以外の世界をもっと知った方が良い!」


「………えぇ………ありがとう………でも………」


「もう僕は行く気まんまんだよ!(笑)

充分下見もしてきたし」


「………………私………怖い………」

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