第47話

        【2】


気持ちも可也楽になっていた。

今度は真っ直ぐキララの部屋へ向った。 


スペシャルルームが近づくに連れ、中から活き活きとした女性の声が聞こえてくる。


「じゃ、また来るわ!」


出て来たのはソフィアだった。


いきなり入り口でソフィアと正面からぶつかりそうになった。


「ソフィア!」


「あっ、失礼! って、スウィン!」


「只今帰りました!」


「お帰りなさい!

ってか、どうしたのスウィン、連絡もよこさないでぇ」


「あぁ申し訳ない! 地球を堪能してたんです」


「やっぱりねぇ……… 貴方のエアカーが無いから、そんなことだろうとは思ってたけど。

キララが心配してるわよ。

早く行ってあげて!」


ソフィアはそう言ってスウィンの背中を軽く叩いた。


「はい。

1ヶ月空けちゃったからな………

それで真っ先に此処へ来たんです」


「分かったわ。

それで貴方自身はどうなの?

少しは落ち着いた?」


「えっ?!」


「とぼけたって無駄よ!

これでも私、人への観察眼は鋭い方なの(笑)」


「あはっ、バレバレでしたか………」


「良いのよ。理解できるから」


「すみません。 もう大丈夫です」


「じゃぁ、後で私の所にも寄ってね!

あぁ、御両親を訪ねてからで良いわ。


キララがずうっと貴方を待ってたのよ」


最後をヒソヒソ声で言いながら、ソフィアはニタリと笑ってウィンクした。


「はぁ…… 了解しました」


「スウィン?」


か細いキララの声がした。


「ただいま!」


「スウィン………」


キララは涙ぐんでいる。


「あぁ……ごめん………

連絡すれば良かったね………」


「違うの。 なんか嬉しくて………

どうしたんだろう私……」


「話したいことが沢山あるんだ!

それと……… お茶……よばれに………」


「あっは、もちろん!


さぁ どうぞ! 今日は私の部屋に直行!

クッキーも出来てるわ!」


スタスタと先に行くキララの後ろ姿はとても儚げで、初めて会った時の活き活きしたエネルギーは微塵みじんも感じられない。


おチビちゃん達の長閑のどかなパノラマを眺め、閉め切られたアンドロイドの倉庫? いや部屋を通り過ぎてキララスペースに辿り着くまで、二人とも無言だった。


キララは歩きながら心の整理をしているらしいことが、スウィンにはその背中で分かった。


そんなにキララは僕を待っていてくれたのか………

スウィンは申し訳無い気持ちでいっぱいになった。


ポロンが入り口まで飛んできて、スウィンを見ると驚いた表情をした。


「あらスウィン! 待ちくたびれたわ!」


「君も待っていてくれたの?」


「近々来るって言ってたからね。

でも私が待ってたんじゃ無いわ。

キララの精神状態に共鳴してるだけ」


キララの頬が真っ赤になった。


「あっ、キララごめんなさい!

私余計なこと言ったわね」


ーーーーーポロンの人に対する観察力、分析力、反応力は元々設定されたプログラムなのだろうか?

それとも此処での生活でバージョンアップしたのだろうか?

自己保身も出来るようだーーーーー


そんなことを考えていると、スウィンはふとポロンの視線を感じた。

そのまま暫く気づかないふりをした。

その間ずっとポロンのスウィンを観察する視線が続いていた。

決して穏やかなものでは無い。


不安を感じさせるその視線から逃れるため、スウィンはわざとポロンを直視して微笑んだ。


ポロンは一瞬ビクッとした様子を見せたが、すぐ笑顔になって


「お帰りなさい!」


と媚びるように笑った。


ーーーーー演技もしている………


外見の変化を探知するプログラムと、その変化毎の対応バリエーションを保管する膨大なキャパシティのプログラムと、そしてシチュエーションに応じた選択を促すプログラムが内蔵されているだけなら、今のところは問題無いが………ーーーーー


スウィンは本能的な違和感を感じて、アンドロイド達に表情を読まれることを避けると同時に、出来るだけ頭の中も空っぽに保とうと決めた。


パンのアンドロイドがとても美しいメロディを奏でている。

懐かしさを感じさせるこのメロディは、いったい何だろうと一瞬スウィンが思っていると


「これは150年以上前の曲のパンアレンジよ」


と、ポロンが説明した。


ーーーーーやはりポロンは人の心を読めるのか………

そしてそのことを僕に気づかせたいのか………

それともただの偶然か………ーーーーー


スウィンは、無駄なことかもと思いながら、表面だけは素知らぬふりを貫いた。


「スウィン、お久しぶりです。

またお会いできてとても嬉しいです」


うやうやしく挨拶するのはアンドロイドのケンタウルスだった。


「やぁ、御無沙汰だったねぇ。

僕も会えて嬉しいよ」


そう答えながらスウィンは少しホッとした。


ーーーーー彼等はまだ大丈夫だろう………ーーーーー


部屋のドアを開けたキララに促されてスウィンは中へ入った。


スウィンが入り切ると、キララはすぐにドアを閉めてしっかり鍵をかけた。

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