第46話
【2】
「今更貴方に説明する必要は無いかもしれないけど、脳内にメカを取り込むことは、脳がメカに支配され兼ねないってことなの。
脳とともに生き続けるメカは、自分が生きやすい環境造りを始めるわ。
メカにとって一番必要無いと判断されるのは、感情を司る部位。つまり
ジワジワとメカが侵食して扁桃体を圧迫し始め、扁桃体はそれに抵抗すること無く次第に小さくなって挙げ句の果ては扁桃体が全く無くなる者すら居るわ。
そうなるともう
人間にとって最も人間たらしめるものは、豊かな感情であって数字では無い!
感情を持つ我々生の人間の居場所がどんどん少なくなってきているわ。
正直、生の人間がセンターの長になるなんてことも、私で終わりかもしれない。
だからこそワームホール飛行のリーダーも強引に貴方を選んだの。
人間とメカの入れ替わりは、思いの
しかもどんな形でその瞬間が訪れるか、予想すら出来ないのが現状。
此処の人間達は皆その時を怖れ、
「メカは飽くまで人間の創造物でしか無いなんてノウテンキな自尊心を持てた時代には、
「人間は変に力を持ってしまうと、特に科学的な進歩を伴った力を持ってしまうと狂気に走りやすいことは、昔からの普遍的な
「ソフィア!
せめて我々は同じ過ちを犯す連鎖を断ち切りましょう!」
「心強いわスウィン!
貴方をリーダーに選んで良かったー!
キララのこともそろそろ貴方に伝えるべきだと考えていたの」
「両親もそうだったようです。
僕なりにキララのことはいろいろ考えてみようと思います。
取り敢えず、近々キララを外へ連れ出そうと考えています。
1年の間に出来る限り多様な場所へ連れて行きたい。
自然や人や人以外の多くの生物やセンター以外の人工物や、キララの知らない様々に触れさせたいんです。
それが地球と言う星との繋がりを得ることになるとは限りませんが、少しでも地球の愛を感じさせたいんです。
宇宙との繋がりを持たないキララに、キララなりの特別で確かな繋がりが得られないか、まだまだ
「了解よ! よく申し出てくれたわ!
外出に関しては私から貴方にお願いしようと思っていたの。
年齢も貴方が一番近いし、話しも合いそうだからね」
「良かった!
じゃ、キララとの外出許可を頂けるんですね」
「
誰の許可も要らないわ。
キララにいろんな経験をさせてやって!
よし! 今から1年間キララに関する責任は全てスウィンが負うものとする!」
「ハハハ………まいったな〜 責任重大だぁ」
「まっ、肩肘張らずにキララと地球を楽しんで!
貴方自身の為にもね」
両親やキララがソヒィアを心から信頼していることがスウィンにも理解できた。
ソフィアにはあんなふうに言ったものの、すぐキララに会うことを
スウィン自身にも意外な程、心の重さを克服出来ないで居たのだ。
スウィンは、取り敢えず一人で久しぶりの地球を散策してみようと、一人乗り用のエアカーで出掛けた。
スウィンが好みと必要に応じてカスタマイズしたエアカーは、重力制御装置を
スウィンは以前からセンターに居る間は毎日必ず一度愛車との散歩を楽しんでいた。
特に考え事や気持ちの整理が必要な時は、愛車での遠出が何よりもスウィンを落ち着かせた。
一日目は、チリをゆっくりドライブしてから飛行に切り換え、未だ残るトレス•デル•パイネ国立公園、ビーグル水道を巡り、そのままアルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイと移動して車中泊。
翌日も飛行バージョンのまま、ブラジル、ギアナ、スリナム、ガイアナ、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ペルーと周遊して夕焼け時刻チリに戻った。
そして、スウィンが滞在したどの星より美しい地球の夕日に涙した。
一旦センターに帰ってシャワーを浴び、長期間の荷物を詰め込んで三日目再び旅立った。
北米からユーラシア方面に渡る予定を立てていた。
勿論日本とイギリスにも行くつもりで、それぞれ2〜3日の滞在を考えていた。
何処へ行っても都市部は避けた。
人工物の風景は皆同じように見える。
今は特に自然の恵みに触れたかった。
日本には三日間滞在して、北海道から沖縄までじっくり観光した。
イギリスにも三日間取って、スコットランドや北アイルランドの未だ残されている自然美に酔いしれた。
日本もイギリスも、スウィンの血の中に流れる感覚を生んだ土地だと実感させてくれる。
改めてあまり知らない祖父母の面影を見た気がした。
各所の山々や湖の前でも、自分がこんなに大自然に飢えていたのかと呆れるくらい、ことごとく足が止まった。
全ての場所で『キララを連れて来たい』と思った。
太陽系の惑星で唯一多様な美しい自然に恵まれた地球が、ひょっとしたらキララと宇宙の橋渡しをしてくれるかもしれない。
そんな淡い期待もある。
そうやって1ヶ月が過ぎた頃、ようやくスウィンはセンターに戻った。
↓スウィンの愛車(エアカー)を挿し絵として描いた画像です。
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