第44話
【2】
「ただ、『人類と言う生物』を残したかった………」
「だからって、形だけ残してどうなると言うんですか!
造られた人類は本当の人類じゃ無い!
仮に人類と言う生物が、メカや他のものに移行したり入れ替わったり、絶滅したとしても、それこそが人類だということでしょう!
そんな愚かさも含めて『人類』なんですよ!
………形だけ人類を残そうと『神の領域』に土足で踏み込む愚かさもですけどね………」
「………………………………
……………確かに愚かだったかもしれないわ………
実のところ、今更だけど我々にも迷いが生じているの。
キララはとても不安定なの。 生まれた時からだったわ。
単なる情緒不安定とも違う、もっと根源的な不安を潜在的に持ってる。
キララの成長を見ながら気づいたの。
様々な
人工人間一人目のキララは、倫理に欠けることを重々承知の試験的なチャレンジだった。
キララの様子を見ながら、二人目、三人目と続けるつもりだったわ。
でも、キララの不安定さに尋常では無い奥深さが見えてきて、まずはキララに集中することにしたの。
遺伝子には、地球が誕生した時から、いえ、宇宙が誕生した時からの綿々と続いた確固たる繋がりが有るわよね。
だからこその『遺伝子』でしょ。
人工の遺伝子にはそれが全く無い! ゼロよ!
アナタが言うように形だけ模倣しても、科学理論から造られた『モノ』は決して『遺伝子』では無いわ。 遺伝子
キララを愛し始めてようやくそのことを実感したの。
頭では分かっていて、大義の為に目を
親が居ないとかとは違う次元の、本来遺伝子が持つ宇宙との繋がりが全く無いことからくる生命としての不安、危うさ、闇がキララにはあるの。
口では説明のしようが無いけど………」
「アンドロイドとのスレ違いのことは本人から聞いてますよ。
特に思春期の頃の自分を許せないと………」
「あの頃、いち早くアンドロイドがキララの『不安定な闇』に気づいて、次々にキララと距離を置きたいと言い出したの。
自分達には救えないし、寧ろキララの闇を深めるだけだからって。
アンドロイド達は、とてもキララを気遣ってくれたわ。
感情プログラムもキララを通してレベルアップしたくらい。
たぶん、普通の人間に無い何かをキララの中に見たのかもしれない。
それはアンドロイド達に近いものだったのかもとも思う。
だからこその気遣いだったんじゃないかって………
何回かキララに会っていればアナタにも解る時が来ると思うわ。
たぶん何人の人工人間を造ったところで、同じことだと思うの。
そしてその不安定な闇が子孫に遺伝していくことになるわ。
あの根源的な闇を抱えたままで、生命力を維持することは出来ない。
すぐに絶滅するでしょう」
「結局キララは、実験材料で終わるということですか………」
「そうならないよう必死で努力してるわ。
創造者である我々は、キララに対して絶対的な責任を負ってる。
挫折は許されないの!」
「それでまだ御二人ともセンターに残ってるんですね………
今回、お父さんもお母さんもそろそろ引退を考えて良いんじゃないかと言うつもりだったんだけど、キララを残しての引退は無責任過ぎるな……」
アーロン博士とエレナ博士は黙って深く頷いた。
そして
「責任だけじゃ無いわ。
私達は彼女を心から愛してるの」
と涙ぐんだ。
「……………そうですか……………
分かりました。
僕も出来る限りの協力をします。
その前に一つお聞きしたいことがあります。
僕がすぐマルスステーションに配属されたのも、その後あちこちのステーションに回されたのもキララに接触させない為ですか?
それと、お父さんお母さんに限界が来た時、誰がキララを見守るんです?」
「アナタにキララの存在を気づかせない為に、センターへの深入りを阻止したことは否定出来ない。
でもそれは、才能あるアナタの前途というベースが有ったればこそのことよ。
アナタより1年遅く生まれ、ほぼアナタと同時に成長して居たにも関わらず、純粋な人間であるアナタと人工人間のキララとの根本的な違いを感じながら、その後の方針も定まらないまま、我々は戸惑いと焦りでパニック状態に陥っていたの。
そんな空気の中でアナタの才能を
それが根本よ。
それから、私達が亡くなった後のキララは、センターが全責任を負うことになってるわ。
特にソフィアはセンターに来てまだ日が浅いけど、とても深く事実を理解してくれてる。
彼女は優秀だし信頼出来るわ」
「…………………………僕もいろいろ考えてみます。
それと、キララを外に連れ出しますよ!
出発までの1年間で、出来る限り地球を教えたい!
僕自身も見納めしたいし………」
「えぇ、そうしてやって!アナタが一緒なら安心だわ」
「そうだな!
キララが望むならできるだけ多くの場所に連れて行ってやってくれ!」
「望まなくてもね(笑)
無理強いはしませんけど」
スウィンにそれ以上言える言葉は無かった。
スウィンは専用の居住スペースに戻り、真っ直ぐベットにダイブした。
珍しく重い疲れを感じながら一人考え込んだ。
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