第39話
【2】
天井は高い吹き抜けになっており、網が貼られた向こう側は外のようだ。
一番奥の壁沿いに連なる岩山には滝まで設えてある。
その水は、ミニ恐竜達的には広大に見えるであろう原野の大河へと繋がり、ジャングルを抜け、入口近くの排水溝に流れ落ちていた。
岩場の陰から見覚えのある鳥が飛んできた。
プテラノドンだ。
山々とジャングルの上をグルリと大きく旋回して、こちらに向かってくる。
その悠々たる飛びっぷりは、とてもおチビちゃんとは思えない。
遠目に見るホンマモンのプテラノドンのようだ。
一瞬太古の世界にタイムスリップした錯覚をおぼえ、スウィンは
ドアの近くで、2匹のティラノサウルスがキララの与えた肉を食らっている。
「これで見てごらん!」
キララが差し出したアンティークな小型の双眼鏡で、改めてティラノサウルスを見てみると、
「オ〜!」
恐ろしい迫力だ。
「うん………
あっ……他の肉食獣も一緒に食べ始めた………
仲良く食べてるのが違和感を感じるなぁ………
与えられた餌で満足してるのかい! 闘争心は!」
「草食おチビちゃん達のことも追わなくなってきてる。
仲間同士で
本当は
一度餌の味を覚えると、楽をするようになるみたい。 最強肉食獣でもね。
なんだか穏やかになっちゃって………
この子達は既にティラノサウルスじゃ無いわね。
やっぱりおチビちゃんよ。 可哀想に………
これじゃ、研究が目的では無いって証明されたも同然よね。
ひょっとしたら私の為に造ってくれたのかなって気もする」
キララはそう言いながら、寂しそうに遠い目をした。
「君の為? それどういうこと?」
「いえ、何でもない!」
キララが慌てて自分の言葉を打ち消したことに、スウィンは妙な違和感を感じていた。
プラキオサウルスやイグアノドン、ステゴサウルス、トリケラトプスのおチビちゃん達の、優雅に草や木の葉を食む姿もある。
皆穏やかで呑気だ。
恐竜以外の生きもの達も虫のように蠢いているのが見える。
肉眼では見えない大きさの生きものもウジャウジャと居るのだろう。
これは作られた世界なんだからと楽しんでしまうには、問題が深過ぎる。
キララは指示されるままにおチビちゃんの世話をしているのだろうけれど、常に身近な分、誰よりもその問題を重く感じているのかもしれない。
キラキラした笑顔の奥に隠された、優しさ以上の『共感』とも言える孤独な陰を見た気がした。
「じゃ、今度は私の友達を紹介するわ」
50㍍四方以上のパノラマは、部屋と言うより景色だった。
その景色を眺めながら次の部屋に向かう。
次の部屋には大きくて頑丈そうなドアが付いていた。
キララがドア脇の小さな丸い装置の前に立つと、頭の先から足の先まで人認証センサーの青い光線に晒された。
それから音も無くドアが開き、華やかな光が部屋中に満ちた。
「あっ!」
スウィンの顔に恐怖が走った。
「………アンドロイド?」
「そうよ。 全員アンドロイド」
「驚いた! 一瞬死体かと思ったよ」
アンドロイドは、乳飲み子からティーンエイジャー位までの男女で、おチビちゃんスペースの2倍以上は有りそうなスペースに一体づつ専用ケース入りで整然と並んでいた。
「いったい何体位有るんだ?」
「万を越えてるらしいわ」
それぞれに個性を持たせて造るアンドロイドとは言え、稼動休止状態で個性を消され無表情に延々と並ぶ姿は、不安を呼び起こす不気味な凄みがあった。
「………ひょっとして………」
「残念ながら私はアンドロイドじゃ無いわ(笑)」
「そうだよね………
君に人間の友達は居ないの?」
「センターの皆が友達よ。
でも10代後半までは確かに居なかったかも。
センターから出ることも無かったし」
「えっ? 学校は?」
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