第38話

        【2】


「キララ……君にぴったりな名前だ」


「有り難う。 私も気に入ってるわ」


「僕のどんなことを聞いてる?」


「そうねぇ……

貴方はアーロン博士とエレナ博士の息子さんで、とっても優秀で、12歳からセンターの一員で、太陽系のステーション全部周ってて、ワームホールの開発者で、ワームホール初有人飛行のキャプテンで………


それにハンサムで………」


キララは頬をバラ色に染めて含羞はにかんだ。

スウィンはそんなキララが愛らしいと思った。


「まっ、いろいろ!

23年間聞かされ続けたんだもの、言い切れないわ」


「23年間? 君は幾つなの?」


「私は23歳よ! 貴方は24歳でしょ。 貴方より一つ下」


「えぇ? ってことは、赤ちゃんの時から此処に居るの?」


「そうよ。

父親のことはよく知らないけど、母親は此処で働くシングルマザーで、出産の時に亡くなったと聞いているわ。

70歳を越えた出産だったし、元々あまり身体も丈夫じゃ無かったって。


だから私センターで育てられたの。

センターが私の家よ。

今は職場でもあるし。


センターの皆がお父さんお母さん兄弟姉妹だと思いなさいってエレナ博士が言ってくれてる。

私はエレナ博士がお母さんだったらいいな!

そしたらスウィンがお兄さんで……

お姉さんはソフィアかな……」


「そうなのか………


僕とほぼ同時進行で君が此処で成長してたなんて……ぜんぜん知らなかったよ。

両親からも聞いてない。


でも兎に角僕が君のお兄さんになれるよう頑張るからね」


「これ以上頑張らなくていいわ(笑)


それよりこのエリアを見学してく?

貴方が居ない間に出来たセクションよ」


「あぁ是非!

僕はセンターに来てすぐマルスステーションに配属されたから見学なんてしたこと無い。

実は此処も初めて来た気がする」


「そうでしょうね。

このスペシャルルームは貴方がマルスステーションに行ってすぐに建て増ししたみたいだし。


あっ、じゃぁ取り敢えずおチビちゃんに会ってみる?」


言いながらキララは、さっき出てきたガラス張りの部屋を指差した。


「おチビちゃん? 誰だろう?」


ふざけた顔をするスウィンに背中を向けて、


「さぁて誰でしょう」


とキララは笑いながら小さく肩をすくめた。


「中を覗いてみて!」


近づいてみると、ガラス張りだと思っていたのはガラスでは無く、透明な合成樹脂だった。

生きものが居ても危険を少なくする為だろう。


中は50㍍四方の広いスペースに、太古の景色を思わせる大パノラマが設えてあり、驚いたことにそのあちこちで様々な種の恐竜達がうごめいていた。

それも背丈10㌢程の恐竜が。


「え〜っ!」


「可愛いでしょ。

遺伝子操作でおチビちゃんになったの」


「確かにおチビちゃんだ。

ペット化したってことか……」


「今はペットみたいな扱いになってるけど、元々は恐竜が絶滅しないでいた場合の進化状態や環境に与える影響の研究が目的だったらしいわ」


「テラフォーミングに備えてか………」


「そんなとこかもね……

でも、無理よね。こんな稚拙ちせつな環境じゃ。

たぶん名目だけ研究目的にしといて、本当は生きたミニ恐竜をペットにしたい願望の強いスタッフの悪戯いたずらよ。


私も楽しいけど、おチビちゃん達には迷惑な話よね………」

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