第36話
【2】
センター長は、スウィンの留守中に代替わりしていて、スウィンより一回り
「ソフィア•カルラです」
と自己紹介しながら穏やかに微笑む彼女の第一印象は、スウィンにとって可也良いものだった。
余計な言葉も無く全てに於いて
スタッフの殆どが彼女を愛し尊敬しているらしいことが、帰還してすぐからスウィンにも感じられた。
誰もが親しみを込めてファーストネームの『ソフィア』と呼んでいた。
スウィンもそれに倣った。
彼女もやはり脳改造をしていない生の人間だ。
メカ的に優秀な人材は沢山居るが、まだまだ全体を
アンドロイドは勿論、脳改造で高みを目指す者達も今はまだそれを了解していた。
ソフィアから全スタッフへのセンター内報告が始まった。
「いよいよ実施される待ちに待ったワームホールでの初有人飛行について、大まかに説明します。
なにしろ皆さん御存知のように、重力発生装置搭載の船をワームホール越しに遠距離操縦するのは不可能なので、いきなり有人飛行ということになります。
危険は承知の上です。
装置搭載の割にはスリムな船体に仕上がったことにまず喜びを禁じ得ません。
スタッフの皆様の努力と忍耐に心から感謝申し上げます。
どれだけ携帯化できるか、これが一番の課題だったからね! ほんと有り難う!
まず第1段は、
99%信じてるけど(笑)
成功したらあちらの安定した空間に停泊して、船と乗組員全員を検査し、1週間後に戻ってきます。
そしてまた全ての検査を行い第2段目に備えます。
失敗した場合は、その都度対処します。
最終的には、
第2段目の出発は、一応の予定では1段目が戻ってから半年後ですが、1段目の状況によります。
スタッフのメンバーチェンジもあり得ますので、皆備えて待機しておくように。
第2段目の滞在期間は今のところ2年の予定ですが、これも決定ではありません。
と言うか、お分かりでしょうが決定できません(笑)
2段目は周辺の探索が主な目的です。
ベガそのものを始め、ベガの惑星、近い恒星の調査等々、詳しくはまた改めてお話しします。
さて第3段目は、いよいよ半永住目的になるでしょう。
御承知のように現在、私も含めて出来るだけ多くのスタッフが居住できる大型船建造に入ったところです。
2段目の調査探索によることが殆どなので、これも決定は出来ませんが、取り敢えず3段目からは地球へ戻れないことも覚悟しておいてください。
1段目の出発は、船の最終チェックと乗組員の肉体的精神的準備期間を1年置いて、来年の今日2180年8月12日とします。
以上!
質問は随時受け付けます!」
出発迄の1年間、スウィンは休息をとろうと決めた。
思えばこれまでの人生では休息などという言葉すら無縁だった。
一心に駆け回っていた気がする。
それが心地良くもあった。
今生死をかけた旅立ちの前に、自分の人生に対峙する必要も感じていたし、心身ともに静かな状態で旅立ちたかったからである。
その日はまずスウィンの留守中に変わった設備やスタッフを確認しようと、センター内をひと通り周ってみることにした。
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