【2】
第34話
【2】
西暦3000年。
既に公用暦は西暦では無いが。
人工恒星系第5人工惑星バイオセンター。
人類を模して作られた人工子宮から子供が誕生した。
性別は男。
僅かに生き残った人類の一人がコピーされた。
彼は優秀な科学者だった。
西暦2200年に消息を絶ち死亡とされたが、彼の残した遺伝子が保存され、時代を越え必要に応じて使用される。
今回は5回目。 4回目から200年ぶりだ。
生まれた赤ん坊は、人類そのものと大差無いアンドロイドによって、太古の人類と同じように育てられる。
それが遺伝子を残した彼の、遺伝子使用に於ける絶対的な条件の一つだった。
赤ん坊は、今回もまた彼と同じ『スウィン』と名付けられた。
スウィンと言う名前は、遥か昔惑星の万有引力を利用して人類が地球から宇宙へと飛び出した偉大な第一歩の功績を担った『スウィングバイ』が由来だった。
二人ともマルチ科学者だったスウィンの両親は、全てがテクノロジーに移行しつつある中で、科学者であると同時に哲学者でもあり芸術家でもあり、生物としての人間を愛し、アンティークなアナログを敬愛していた。
スウィンが生まれた2155年頃は、既に太陽系の外にもステーションが造られ、テラフォーミングや人工惑星計画にも力が入り始めており、いよいよ本格的な宇宙時代となっていた。
自分達の立っている科学の高みが、太古の人類から綿々と積み重ねられた土台の上に有ることを常に傲りの戒めとしていた両親は、人類の宇宙人としての初デビューを記念して『スウィングバイ』からあまりベタにならないよう、そしてより軽く美しく『スウィン』にしようと決めたのだった。
その頃もナノテクノロジー、バイオテクノロジー、エレクトロニクス等々の進歩と共に、人類はテクノロジーとの融合による『神』に近い理想的な生命体で居ることを望み、所謂人類としての肉体に対する愛着も執着も希薄になってきていた。
それからはノスタルジーとして、元の人間の姿形と感情に近いものを持つアンドロイドを作り、共存と言う建て前をとりながら、自らがテクノロジーによって底上げされているにもかかわらず、旧人間式アンドロイドと対比することで優れたテクヒューマン(実質的なヒュージョン オヴ テクノロジー アンド ヒューマンズ 〈テクノロジーと人間の融合〉)としての存在に優位性を持たせようとする愚かな時代が暫く続いた。
人間の『選ばれしもの』的意識が、常に誰か或いは何かに対するコンプレックスや畏れから生まれるものだということは、テクノロジーの進歩が人間を遥かに超え始めてようやく納得せざるを得なくなり、少しづつ人間の意識も変わってきた。
そんな中でも傲ること無く、飽くまで人間として生きようとした両親に育てられたスウィンも、同じように傲らないことを肝に銘じ、人間性を失わない唯一の科学者としてレジェンドとなった。
だからこそ、スウィンのラボが1000年近く残されたのだ。
テクノロジーによる不老不死も可能になっていたが、スウィンの両親はテクヒューマンになることを拒否し、101歳105歳で亡くなっている。
スウィンも両親に倣おうと決めていた。
スウィンが生まれたのは、父親が60歳母親が56歳の時だった。
その1世紀前位までは、高齢出産と言われる年齢だったけれど、圧倒的な医学の進歩と人類自体の肉体が飛躍的に進化したことによって、60歳程度までの女性であれば普通の出産とされ、それに加え生物としての人類保存に危機感を抱き始めた国の補佐も徹底し、精巧なアンドロイドの支えも通常化して、育児の困難は99%回避されるようになっていた。
寧ろ、全てに於ける人間として熟した親達の出産育児は、子供の成育の為にも昔に比べてプラスになる事例が倍増していたし、育児放棄や育児ノイローゼ等の言葉も過去の歴史上のものでしか無くなっていた。
他方で、人工的な出産とテクノロジーによる代理育児が蔓延し、本来有るべき生物としての人類意識が希薄になって行く危機感は否めない現状も続いていた。
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