第33話

        【1】


突然ハックが叫んだ。


「道の崩壊が迫ってきてる!」


見ると、100㍍程後方で石の輝きが消えている。


「ぎゃぁ〜!」


皆再び走り出した。


しかし、走れど走れど崩壊部との距離を伸ばせない。

寧ろ少しづつ縮まっている。

彼等のスピードは崩壊より遅くなっていた。

でも彼等がそれに気づくことは無い。 

ただひたすら、崩壊が速くなったと思いながら走り続けた。

その走るスピードが普段歩くよりのろいなどとは誰も思わなかった。


                      

スウィンはキララを見失わないよう、その手をしっかり握って走り続けた。

キララもスウィンの足手まといになりたくないと必死で走った。


子供達を抱えた3人の青年が、もっと速く走れる筈にもかかわらず、スウィンとキララをガードするように傍らで走っている。


7人の猫達は四足歩行で猫走りだ。

その方がスピードを出しやすいのだろう。

しかし猫達も、体の大きさは本物の猫達と同じなのに四足歩行の出来ないケラケラ隊の皆や、他のスピードを出せない者達を励ます為に、駆け戻ったり傍らに寄り添ったりしながら走っていた。


ポロンは苦痛に顔を歪ませながら必死で飛んでいたが、彼女もまた全ての者達に気を配り、時々ツゥ〜と上昇して皆の様子を確認したりしている。


鳥花は、片手でキララを守っているスウィンの、もう片方の手で持たれているカップの中に居てめちゃくちゃになりながら、カップの縁を嘴で挟み死に物狂いで頑張っていた。


「鳥花! 頑張れ!」


スウィンの励ましに目を四角にして頷いた。


キララだってケラケラ隊の皆だって既に限界を越えている。

子供達さえ泣き言も言わない。

ハックは常に冷静。

彼等、彼女等こそ本当の勇者だとスウィンは思った。

決して魔王なんかでは無いと。


                      

死ぬ程頑張っている彼等だが、やはりそのスピードは歩くより遅かった。

半透明人は、哀しい顔を俯かせて一人ゆっくり歩いている。


                       


崩壊はどんどん距離をつめてきた。

そしてとうとう走る者達のすぐ後ろまで迫ってきたが、走る者達がスローモーションで崩壊を確認するのを待たずに、容赦無く彼等を襲った。


それは呆気ないものだった。


崩壊に飲み込まれながらスウィンは、一人一人の最後を見届け感謝の念を送ることが出来た。


そして『生き残ることが目的では無い! 望んでもいない! 興味も無い! 

だが、髭爺さんを捜しながら、この腐れ切った魔王を野放しにしない為の戦いは続く』と伝えた。


                      

7人の猫達、ケラケラ隊の皆、途中から加わってくれた有志達、そしてポロンも、皆精悍な姿でフィギュアのように美しく静止した。


3人の青年達と鳥花の姿はいつの間にか消えていた。

コレクションから外されたのだろうか?………


ハックはスウィンの胸で静止したまま。


キララは最後までスウィンの手を強く握り締めていた。

涙の湖にスウィンの姿を浮かべながら、最後にキララはこう言った。


「待ってる………」


スウィンの心に何故か懐かしい思いが込み上げてきた。

スウィンは必死でキララを引き寄せようとしたが、無駄だった。


                       

静止する寸前、スウィンは深い静寂を感じていた。

音も無く、見えるものも無く、唯自分一人………

これまで想像したことも無い大きさと深さ、その中で完全に無力な己の小ささ、救いようの無い無力感と虚無感、そんな全てが一瞬のうちにスウィンを襲った。


                      

いきなり、もの凄い力がスウィンを引き込む………

半透明人がスウィンを鷲掴みにして、二人とも空の片隅に消えていった。

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