第31話

        【1】


もう二度とメソメソしない!

泣き言を言うのもやめる!

誰もがそう決心した。


ブチが静かに何か呟き始めた。

よく聞いているとその呟きにはメロディがある。

そう、ブチは歌っていた。

ホワイトも一緒に歌い出した。

続いてブラックとグレー、ブラウン、ネコビト、ヘンカジンも歌った。

彼等の国の歌なのだろう。

単純で温かく、優しくて明るいメロディだ。

次第に歌の輪が広がって、全員の大合唱となった。

スウィンも歌った。

ポロンもハックも、鳥花まで黄色いくちばしを大きく開けて喚いている。


猫達は母国語で歌っているようだったが、他の皆はスキャットで大声を張り上げた。

流れる者達への鎮魂歌でもあり、自分達への応援歌でもあり、魔王への抵抗歌、宣戦布告歌でもあった。


歌声は荒野中に朗々と響き渡り、流れる者達の魂にも届いた気がした。

きっと聴こえているだろうと思えた。

空気が柔らかくなってきたからだ。


合唱はずっと続いた。


が、突然合唱以外の妙な音が聞こえてきた。

皆歌うのをやめた。


魔王の笑い声のようでもあるし、獣の唸り声のようでもある。

機械の振動音にも近いし、土砂降りの雨音、金属を引っ掻いたような鳥肌立つ鋭い音にも聞こえる。

いや、一つの音では無い。 その全ての音が聞こえているのだ。


乱雑な音達は、進む毎大きく複雑になり、とうとう我慢出来ないくらいの大騒音となった。

しかし光と同じように何処にも音源が見当たらない。


「この音は何なんだ!」


流石さすがのブラックもこぼした。


「今更戻るわけにもいかないが、このまま進んでこれ以上音量が大きくなったら正常を保てなくなるかもしれない」


「あっ、見て!」


キララが近づいて行く方を見ると、ケラケラ隊の子供の一人が耳から血を流していた。


「大丈夫か?!」


ブラックは慌てて出血した子供の耳をふさぎ、


「まだ耳は聞こえているか? 頭は痛くないか? ふらつかないか? 他に不具合は無いか?」


矢継やつぎばやに問うた。

子供は耳からの出血以外、何の症状も今のところ無さそうだったが、ブラックは取り敢えず戻る決心がついた。


他の者は大丈夫なことを確認して、早速戻ろうとした時


「あれは何?!」


ケラケラの声で皆振り向いた。


                      

「月だ………」


スウィンがうっとりした瞳で呟いた。

明るい空に、白い月が儚げに彷徨っている。

傲慢ごうまんな音の攻撃を一瞬忘れるくらい神聖な美しい満月だ。


「美しい………


あの無数に有るのは?」


「えっ?」


ケラケラに言われ改めてよく見ると、月は一つでは無い。

最初に見つけた月以外は影のように微かな姿だが、空全体を埋め尽くす無数の月が確実に見える。


「はあぁぁぁ……………」


スウィンは息を飲んで呆然と立ちすくんだ。


ケラケラとスウィン以外の者達にもようやく確認出来たようだ。


「うわぁ〜! 何あれ?! うじゃうじゃ!」


ポロンは呆れているし、子供達もあんぐり口を開け見入っている。

ハックや大人達は興味深そうに眺めていた。


「月だけでは無さそうだな。

いろんな星の集団だろう。

よ〜く見てごらん、大きさも色も輝きも全部まちまちのようだ」


ブラックが感心したように説明した。


「マジ〜?!

星もコレクションしてるってこと?!

まったく、どこまで貪欲なの!魔王の奴!

魔王、頭おかしんじゃない!」


「確かに狂ってる!」


スウィンは言いながら吹き出した。

だいたい魔王に頭なんか有るかどうかも疑わしい。


「ひょっとしてあの音、星々からの?!」


スウィンの問いにブラックは


「有り得る!」


真剣な表情で一言そう言った。


「ブラック………」


ヘンカジンが怯えたようにブラックを見つめた。


「どうした?」


「道の先を見て!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る