第29話
【1】
流れる者達は確かに動きが止まっている。
自身の動きだけでは無い。 流れさえ止まっているように見える。
ほんの僅かづつ移動しているのかもしれないが、殆ど静止状態だ。
道行く者達は追い越された流れる者達を、いつの間にかどんどん逆に追い越していたのだ。
振り返ると、レディ ミラーもパンも踊り娘達も既に後ろで動かなくなっていた。
すぐ目前にはさっきの恐竜達が迫ってきている。
「随分歩いたんだなぁ………」
スウィンがそう呟いた。
そしてふと思った。
此処まで来ると、道の中とは言え時間の狂いを調整するのも可也難しいのかもしれない。
時間の感覚がよりいっそう分からなくなっている。
この状態が今なのかさえ自信が無い。
スウィンの心を読んだケラケラが言った。
「この状態が今であることは確かなようです。
それに我々はもうコレクション倉庫の中に居るかもしれないことは否定出来ません」
「半分冗談だったんだけど………マジか〜!」
ポロンは青ざめた顔で大きな溜め息をついた。
カチヨンが歩みを止めて皆も制止させた。
「此処から先は、各自の助ける者達を探しながら歩こう!
彼方に浮かぶ者達を確認するのは難しいが、取り敢えず見える範囲を探しながら進むんだ!
その場で助けられる者は助けながら!
と言っても、魔法の石の保護が及ぶ範囲には浮かんでいないわけだから、どうやって助けたら良いのか浮かんでいる状態によってその都度考えよう。
始めに道を戻ってレディ ミラーとパン達を助ける!
皆方法を考えてくれ!」
皆レディ ミラーが浮かんでいる場所目指して戻りながら、救う方法を真剣に考えた。
レディ ミラーの真下に辿り着いた。
彼方を見つめたまま止まっているレディ
ミラーが流した涙も、目尻にとどまった状態で静止し、宝石のように瞳を飾っている。
美しいレディ ミラーの顔をマジマジと見たスウィンは、暫し茫然自失状態だった。
いや、スウィンだけでは無い。
誰もが彼女の美しさに驚きと憐れみを持って見惚れていた。
レディミラーは5㍍位の高さに浮いている。
「さて、どうしたものか………」
カチヨンの呟きに反応したのは意外にも子供達だった。
「誰かの上に他の誰かが乗って、またその上に他の誰かが乗って、またその上に誰かが……って繋がったら届くんじゃない?」
「確かに………」
ん………、とは言え殆どが猫タイプの身長だし…………
しかし、いつの間にかカチヨン隊に参加した者達の中に、人間に似た青年が3人居た。
3人ともすらりと背が高い。
「じゃ、君達3人が一番下で肩組みして、その肩にスウィンとキララとネコビトが乗り肩組みする。 またその肩にブラック、ホワイト、グレーが肩組み、その上にブチ、ブラウン、そしてケラケラが肩組みする。
あとはケラケラ隊と他の有志が参加してくれ。
私は一番上に登ってレディ ミラーを救出する!」
メンバーに入って無いヘンカジンが不服そうにカチヨンを見つめた。
「ヘンカジン、君は不安定な状態だから危険すぎる。 下で支えてくれ!」
ヘンカジンは何とか納得して頷いた。
「よし! 早速とりかかろう!」
カチヨンの号令が勇ましく響いた。
「オーッ!」
3人の青年達は、頼もしい土台となった。
2段目のスウィン、キララ、ネコビトが肩組みした青年達の上に登るのは多少苦労したが、あとは何しろ猫達なわけだから、スラスラと登ってスラスラと肩組み、と言いたいところだけれど、四足歩行がお得意の猫達が二足歩行スタイルで肩組みされてもね………
この森に馴染んでいる彼等的には別段問題は無かったようだが、華奢に見える後ろ足立ちでは見てる方が不安だ。
とは言え
彼等の上に昇る者達も軽い者達ばかりだから、重量的には何とかなりそうだ。
結局、重量の負担がかからない小柄なケラケラ隊の6人が加わって段を増やし、いよいよカチヨンがてっぺん目掛けて駆け登った。
猫達が登る時は常にそうだったように、カチヨンが登頂する時も「イテ!」だの「ゲッ!」だのの声があちこちで飛び交った。
猫の爪はけっこう鋭いからね。
たとえ元は人だった猫でも。
颯爽と登り着いたカチヨンは、戦闘態勢の猫よろしく身を低くして暫くレディ ミラーの状態を観察していた。
丁度レディ ミラーの、垂れ下がったドレスの裾にカチヨンの手が届きそうだ。
かと言って、カチヨンの猫手ではそれを掴んで引っ張るのは無理。
ジャンプして両手で挟むしか無い。
「私が裾を挟んだら、3人で私を引っ張ってくれ!」
最高段の3人にそう言うと、カチヨンは獲物を狙う姿勢でタイミングを見計らった。
そして、ドレスの裾目掛けてジャンプ!
「えっ?!」
「うそ!」
「キャーッ!」
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