第28話
【1】
カチヨン隊の中にはレディ ミラーからの伝言を受けて参加した者が多い。
しかもレディ ミラーを助けるという大義からの参加が殆どだ。
そんな者達が最初、流れるレディ ミラーを見つけた時の意気消沈ぶりは気の毒なくらいだったけれど、レディ ミラーからの励ましと、与えてくれる信頼を裏切るわけにはいかないという正義感で熱くなっていた。
今や子供達も全てを理解して闘志に燃えている。
パンや踊り娘達が次々と流れてきた。
踊り娘達は、道を行く者達を見つけると、皆の心に「助けて!」と叫び続けた。
「大丈夫! 必ず助ける!」
と答えるしか無い。
でも、本当は皆不安だった。
そんな気持ちも全て彼女達に伝わっているだろう。
パンは諦めたような冷めた目で皆を
どんな言葉より、パンの無言の方が雄弁に真実を語っているとスウィンは思った。
誰もが、闘志だけでは勝てないことを知っている。
魔王を屈服させることより、自分達が屈服させられることを想像する方が容易なことも分かっていた。
それでも彼等は前進した。
光源の無いこの世界では、今が午前なのか午後なのかさえ分からない。
スウィンが髭爺さんとの家に別れを告げて森に入ったのは午前中だった。
しかしそれは髭爺さんが時間の概念を教えてくれたからだ。
髭爺さんが作ったと言う時間を示す時計も有った。
スウィン自身『夜』と言う知識は持っているが体験したことは無い。
時計の無いこの森で、時間の概念が無いことも頷ける。
まして過去、現在、未来が交錯する此処では、
現在の時間どころか、どの位の時間が経過しているのかを予測することさえ出来ない、
昨日が今日で明日が昨日のような気もする。
スウィン自身の体内時計も完全に狂っている。
此処へ来て明るさが変化し始めていた。
しかしそれは安定した一定の変化では無かった。
急に薄曇りのような明度になったと思うと、次の瞬間にはいきなり目も開けていられない程ギラギラした明るさになり、忙しなくそれを繰り返している。
相変わらず暗くなることは無いが、明度が低くなると気温もどっと下がる。
しかも有り得ない急降下。
そしてギラギラの時は、裸になりたくなるくらいの暑さ。
夏と冬を繰り返している感覚だ。
その激しい変化は、道行く者達を疲れさせた。
誰もが生き絶え絶えで
道の中でさえこの変化なのだから………
と、スウィンは周囲を見渡す。
荒れて岩だらけの死んだような世界が広がっている。
流れる者達は既に全く動かなくなっており、見開いた瞳に生気が無くなっていた。
まるで死体の行列のように流れていく様々な生きもの達を見るのはあまりにも忍びないため、誰もが自分の歩く足をじっと見つめながら進んだ。
ポロンがスウィンの肩に舞い降りて、疲れ切った溜め息をついた。
「いったい何処まで行けば良いの?
コレクション倉庫に着いても、あの死体が生き返るとは思えないんだけど……」
「死体じゃ無いよポロン!
冗談でもそんなこと言っちゃ駄目!
魔王を倒せばきっと皆生き返る!」
「姿を見せない魔王をどうやって倒すの?」
ポロンの言葉は的を得ているだけにスウィンの心をグサリと突き刺した。
大人だと感じていたポロンだったけれど、今はスウィンの方が大人にならなければならないようだ。
「ポロン、気持ちは分かるけど諦めちゃ駄目だよ。
諦めたって何も解決しない。
コレクション倉庫に着けば、どうすべきか分かるさ」
「だけどスウィン、彼等が死体状態になってるってことは、此処は既にコレクション倉庫なんじゃない?」
「えっ?!」
スウィンは慌てて周囲を見渡した。
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