第27話

        【1】


魔法の石の存在は、彼等の不安を一挙に吹き飛ばした。

誰もが安心して前進を続けられた。


流れる者達は4〜5㍍上空より下を通ることは無かったので、ぶつかる心配も無い。

道を造った者達の完璧さに改めて感謝した。


ただ、流される彼等を見ていると、自分達だけ無事で居ることが申し訳なく感じるのだった。


彼等を見送りながら寡黙に歩き続ける誰もが、一刻も早く魔王を倒し彼等を無事帰してやろうと誓っていた。


一際ひときわ巨大な生きものが、雪崩のような恐ろしい声を上げながら流れていく。

とてつもなくデカい恐竜だった。

あの残虐な肉食恐竜ティラノサウルス!

盛んに首や尻尾や手足を動かしながら、苦しそうに流れていく。

憎まれ役のティラノサウルスも、流石さすがに哀れだ。


ティラノサウルスがこちらに気づいた。

目が鋭く光り、一瞬こちらに向かって来ようとする気配があったけれど、すぐ諦めたように目を逸らして動かなくなった。

とても悲しげだった。


トリケラトプスや首の長いブラキオサウルスも流れていく。

ブラキオサウルスの瞳に光る涙を見た気がして、スウィンも涙ぐんだ。


「待ってて! 必ず助ける!」


スウィンは大声で叫んだ。

声が届いたのだろうか?流れる者達が悲しげにこちらを見た。


「よし! 頑張るぞ〜!」


いつも静かなブラウンが雄叫おたけびをあげ


「お〜!」


皆が勇ましくそれを受けた。

大きな力に立ち向かう勇士達の声は、彼方まで木霊した。


                       

止めどなく流れていく生きもの達。

見たことの無い奇妙と言える位珍しいものも居る。


突然、皆同時に立ち止まった。

そして同時に耳を澄ませた。


「私よ! 此処に居るわ! 後ろを見て!」


一斉に振り返る。


なんとレディ ミラーが流されていた。


「レディ ミラー! 貴女も囚われたんですか?!」


カチヨンが問うと、レディ ミラーは皆の心に直接答えた。


「情けないのですが、そうなんです………


でも皆が無事で良かった!


私は魔王の手から逃れるために道の外を移動することが多かったので、とうとうこの有り様です。

たぶんコレクション倉庫に向っているのでしょう」


「えっ、魔王のコレクション倉庫ですか?」


「はい、パンや踊り娘達ももうすぐ流されてくる筈です」


「ってことは、動物や恐竜達もコレクション倉庫に?」


「そうです」


「一緒に飾られるんですか?」


スウィンは想像するだけでも恐ろしかった。


「えぇ、

倉庫に入ると、動くことも話すことも思考することも出来なくなるらしいですから大丈夫」


「大丈夫って、動くことも話すことも思考することも出来なくなるってことは死ぬってことじゃないですか!」


「死にはしないようです。

言ってみれば冬眠のような状態でしょう。

でも…確かにそんな状態では死んでるようなものですけれど………」


そう言いながらレディ ミラーは涙ぐんで、寂しそうに頭上を流れていった。


その姿が見えなくなるまで、皆励ましの言葉をレディ ミラーの心に送り続けた。


逆にレディ ミラーからも皆に励ましの言葉が止めどなく送られてきた。


「アナタ方を信じている………」


これがレディ ミラーからの最後の言葉だった。

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