第26話

        【1】


スウィンの持っていた袋もいっぱいになってきた頃、遠くから微かな音が聞こえてきた。

声のようでもある。

あまりにも遠過ぎてはっきりとしないが、獣の吠え声にも似ている。

聞こえない者も居るようだ。

聞こえた者達は素早く目で合図し合った。


カチヨンとその仲間達、ケラケラ始めケラケラ隊の大人達、そしてスウィンとポロンはすぐ気づいた。

暫く耳をそばだてていると、子供達以外殆どの者が音を聞いた。

半透明な彼は聞こえているのか否か全く分からない。


皆の表情に緊張が走る。


「何の音だ?」


「怒鳴り声じゃない?」


不安の言葉があちこちで飛び交う。


「兎に角慎重に進もう!」


皆無言で頷きゾロゾロと歩き出した。


子供達が袋の中身を比べて競い合う愉快そうな会話と、屈託ない笑い声が多少緊張と恐怖を和らげる役に立っている。


進むに連れ、音は大きく強くなってきた。

やはり獣の唸り声のようだ。

しかも一匹では無い。 可也の数だ。


突然「ゲ〜ン!」という甲高い鳴き声が大音量で響いた。


さすがの子供達もびっくりして近くに居る大人達にしがみついた。

スウィンにはポロンと鳥花とキララの三人が同時にしがみつく。


ハックは、スウィンと繋がっているから安心なのか、冷静な表情で声や音に集中している。


キララにしがみつかれたスウィンの顔は真っ赤だったけれど、誰にも気づかれずに済んだ。

スウィン自身にさえも。


                       

唸り声や鳴き声や獣のうごめく気配がどんどん近づいてくると、森の切れ目が見えてきた。


鬱蒼うっそうと茂る木々が成す薄暗闇の向こう側に、また異様にキラキラと明るい空と山々の美しい峰が見えた。


「あっ!」


目の前を獣らしき物体が横切った。しかも宙に浮いた状態で。


「今の見た?」


ヒソヒソ話が充満する。

誰もが本能的に身を屈め、そろ〜りそろ〜りと出口に近づいていった。


「エェ〜?!」


「ウワ〜ッ!」


其処は何処迄も広大な岩場で、何故か動物達が宙を漂っている。

と言うより道と同じ方向に流れている。

その数は無限で、あちこちから次々に流れてくる。

光源の無い毒々しい程青い空を背景に流れていくゾウやクマやウシやカバや……………

その種類も半端じゃない。

ワニ等爬虫類の生きものも居る。

比較的大きな体躯のもの達だ。


暫く皆唖然としてその光景を眺めていた。


「此処から出たら僕達も飛ばされるのかなぁ………?」


「いや、ちょっとこれを見て!」


カチヨンの言葉に従って下を見ると、出口の手前から道の両側にポツポツと様々な大きさの宝石が置かれている。

その宝石からは鮮やかなオーラが出ており、何かエネルギーを放出しているようだ。

恐らく道を造った者が、この事態にも対応できる措置を施しているに違いない。


カチヨンが言った。


「やはりこの道を造ったのは我々の先祖かもしれない。

先祖からの言い伝えで、魔法の石のことを聞いている。

『それは宝石のように美しく輝いてオーラを放ち魔王の力から我々を守る』と」


「ソレがコレなんだね………」


「恐らく!」


「きっとそうだね。

じゃ、今まで通り道を進めば大丈夫ってことだ」


「たぶんそうだろう。

試しに私が道の先に入ってみる!

少し進んで大丈夫だったら合図するよ。


ブラック、ホワイト、グレー、ブチ、ブラウン、私に何かあったら頼む!」


カチヨンは早口でそう言うと、素早く森を抜け出した。


魔法の石は、カチヨンの存在を感知したかのように、より一層オーラを強くした。


カチヨンは50歩程歩いてからこちらに振り返った。

そしてにっこり笑って後ろ足で立ち、前足で頭の上に大きな丸を作った。


「よし、行くぞ〜!」


ブラックの号令を打ち消すような歓声を上げながら、皆一斉に駆け出した。


カチヨンに追いつく頃には、既にカチヨンは歩き出していた。

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