第25話

        【1】


カチヨンが三人に近づいて来た。


「あれね………


確かに何が起きているのか不安ではあるけど、今のところ我々にはどうすることも出来ない。


あの位置から見て、可也距離が有りそうだし被害もまだ無いから、取り敢えずこのまま進もう」


「カチヨンも知っていたの?」


「いや、私も此処に着いてから気づいたんだよ。

兎に角、被害が何も無いうちはあの美しさを堪能していよう!」


「そうね、子供達を怖がらせてもいけないし」


ポロンがまた大人発言をしてスウィンを感心させた。


「それより、道の先に緑色が見えるだろ」


カチヨンが指差す方を見ると確かに僅かな緑色が見てとれる。


「あれがもし森林や植物なら、食料を調達したいんだが」


「そうだね。

人数が増えたからね」


「よし! じゃ、出発だ!


みんな〜! この先に緑色が見えるから、食料が有ったら調達しようと思う!

誰が一番沢山調達できるか競争だ!」


子供達は歓声を上げて走り出した。


                     緑に向かう道は大きくカーブしている。

進めば進むほど緑もどんどん広がって、森だということが明らかになってきた。

二つ目の森だ。

或いはさっき抜けてきた森と繋がっているのかもしれない。

一つの広大な森の中に、今迄通ってきた道や川は勿論、岩だらけの谷、そして山々が聳えているだけということも有り得る。


やがてその可能性を暗示することに遭遇した。

岩の崖が低くなっていくに連れ、崖の向こう側にも緑が見えるようになったのだ。


それと、驚いたことに、カーブした道は谷川を逸れて森に入り込み、道の脇に谷川から細い水路が引かれていた。

そう、いかにも意図的に作られたような水路が。

道同様明らかに人工のものだ。


道がカーブすることで輝く不思議な存在からは遠ざかるので危険は回避出来るし、しかもその為に谷川から離れることになるけれど、水路が有れば飲水も失わない。


やはり道を造った者達は、今と同じ経験を辿っていたに違いない。


                       


子供達はお祭りの余興のように嬉々として食料調達に取り組み出した。


森の中は、豊潤な果物が満ち溢れていた。

つい道の外へ出て森の奥深くに入って行きたくなる。


子供達が道を外れそうになった。


「そっちは駄目!」


カチヨンの太く大きな声が響いた。

穏やかなカチヨンの、初めて聞く恐ろしい程激しい怒鳴り声。

道を外れた結果を考えれば当然のことだ。

子供達はしょんぼり立ち止まっている。

カチヨンが子供達に追いついて事情を説明した。


皆突然水を浴びせられたように、ウキウキした気分を失った。

でも、現実の状況として浮かれてばかりは居られないのも確かだ。

無闇に不安がらせる必要は無いにしても、気を引き締めることも必要である。


カチヨンはもう一つ大事なことを皆に伝えた。


「森の中の実が全て食べられるわけでは無い!

毒を持つ実も有る!

食料の調達に当たっては、くれぐれも気をつけてほしい!

出来れば確実に知っている物のみ調達した方が良いと思う!

分からない場合は、その都度分かる者に確認してくれ!」


皆競争どころでは無くなって、慎重に物色し始めた。

子供達も真剣だ。

寡黙かもくな食料調達作業が始まった。


ハックと鳥花だけがそれを見つめている。

しかし彼等も目は真剣だ。


                       

もう一人食料調達競争に関わらない者が居る。

半透明な彼。

彼も相変わらず傍観者だ。


彼は、時々道の外へ出ているようだった。

それでも彼には問題無さそうだ。

何しろ半透明だから確かなことは分からない。


でも、僅かづつではあるけれど彼の全体像が見えてきている。

可也老人のようだ。

しかしまだ誰も気づいてはいない。


スウィンも気づくどころか彼の接近に慣れて来て、あまり気にしなくなっている。


ただ、ハックが彼の方を観察するようにじっと見つめることがある。

何か異変を感じているのか?


色とりどりの果物や木の実や葉っぱ類が、盛り沢山それぞれの袋に詰め込まれた。

色鮮やかで如何にも美味しそうに見えても、得体の知れないものは却下された。


スウィンは半分花である鳥花の存在を考えると、植物と言えども食料にすることにはちょっと抵抗を感じていた。

だけど何も食べないわけにはいかない。

それに、鳥花自身も木の実をついばんだじゃないか!

そう考えることにした。

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