第22話
【1】
剣で閃光の龍を倒せるようだが、今回はたまたまかもしれない。
それに閃光の龍を倒しても魔王を倒すことになるとは思えない。
しかも、魔王しか所在を知らないコレクションされた者達を救わなければならないのだからまだ魔王を殺すわけにもいかない。
だいたいどうやって魔王を倒すと言うのだ。
取り敢えず今は、魔王が諦めて去るのを待つしか無いだろう。
魔王の怒り声は、少しづつ笑い声に変わっていた。
遂には迫力ある笑い声がトンネル中に木霊してカチヨン隊をからかった。
閃光の龍達もニヤニヤ笑いながら1匹2匹と姿を消していく。
暫くすると、諦めたような笑い声を響かせながら魔王が遠ざかって行くのが分かった。
皆、ぐったりと大きな溜め息をついた。
トンネルの入り口の方から、ピタピタと聞き覚えのある音が聞こえてくる。 それも複数音が入り混じって。
カチヨンが立ち上がって警戒した。
続いて皆が立ち上がり、入り口を見入った。
「オーッ! やっと追いついたぞぉ〜!」
皆の頭に直接語りかける者達!
そう、緑色の彼等だ。
「緑色さん達だ〜!」
ハックが勾玉から飛び出して叫んだ。
「アァッハッハ来たのか〜!」
カチヨンも嬉しそうだ。
皆が何だかホッとした。
仲間が助けに来てくれたような気持ちだった。
緑色の彼等は、言葉と言う媒体無しに直接語りかけてくる分言葉の危うさが無いので、彼等が決して悪人では無いことが理屈抜きで分かる。
彼等もカチヨン隊の連中には同じように感じているようだ。
カチヨンと緑色の彼は思わずハグした。
スウィンもカチヨン隊の他のメンバーも、緑色の彼隊員達と握手したりハグしたりし合った。
総勢20〜30人の彼等は、全員緑色の彼とそっくりで見分けがつかない。
多少身長の差があるくらいだ、
あと、明らかに子供ではないかと思われる者も居る。
だんだん見分けがつくようになるだろう。
これからは仲間だ。
「此処に着く前、物凄い声が聞こえていたので心配していたのですが………」
「魔王です。
どうやら魔王が我々をからかっているようなんです」
カチヨンはこれまでの経緯を説明した。
「皆さん無事で良かった……」
「魔王は去ったようですから、皆さんが少し休憩されたら出発しましょう」
全員ごちゃごちゃと円形に座り、隣り合った者同士や近くに居る者同士が雑談し合った。
カチヨンと猫達とネコビトは、緑色の彼とお互いのことや今後のことなどを語り合った。
緑色の彼はよく笑った。
彼等の状況を考えれば、ホッとしたのかもしれない。
しかもこんな時のリーダー的存在は、物凄い重責を感じるだろう。
カチヨンはそんな気持ちが理解できるだけに、ケラケラとよく笑う緑色の彼が気の毒で堪らなかった。
「貴方のことをケラケラと呼んでも良いですか」
「ええ構いませんよ。
でもどうしてまたケラケラなんです?」
「いや何かケラケラって軽い感じが楽しいかなって」
緑色の彼の笑い声は確かにケラケラしている。
とは言え決して軽薄では無かった。
その笑い声には、明るさと同時に明るく振る舞わなければならない重責と虚しさと不安が複雑に絡み合っているとカチヨンは感じていた。
緑色の彼の重荷を皆で分かち合う象徴としての意味をケラケラという名前に託したいと考えたのだ。
かと言って、わざわざそんな説明をしたら緑色の彼の不安を掘り起こすことになり兼ねないので黙っていた。
「ケラケラかぁ……いいねぇ」
緑色の彼はそう言ってまたケラケラ笑った。
「よし! みんな〜! 今から私をケラケラと呼んでくれ〜!」
実際は
「%/#*=&%#@〜!○≮✓%&+ケラケラ%!#@❞%*∫&§☆○〜!」だったが……
声が成す言葉からも、頭に直接届く会話からも皆に伝わった。
緑色の彼が大声で叫ぶと、皆ケラケラケラケラと大合唱してゲラゲラ笑った。
笑い声はトンネル中に響き渡り、ひとときの温かい空気が流れた。
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