第21話


        【1】


「えぇ〜! どうなってんの?

虹は水分に対する光の屈折と反射の具合で出来るって髭爺さんから教わった!

こんなふうに虹が一度にウジャウジャ出来るなんで考えられない!


光は何処から差してる?………」


皆一斉に空を見上げる。

しかし相変わらずはっきりとした光源が無い。

空全体、或いは森全体が光を発してると言える感じだ。


「バカな! 曇っているだけだ!」


この森での不思議にいちいち拘っていたら身が持たない。

ただその美しさだけを愛でようとスウィンは思った。

カチヨンや猫達もそれしか無いと考えていた。


しかし、そうはいきそうに無いようだ。

次第に、空気そのもの全てが虹色に輝き出した。


この周辺はそんなに水分が豊富なのだろうかと訝しがっている暇も無く、虹色の空間のあちこちで細かな閃光が走り抜けた。

カサカサと話し声とも笑い声ともつかない音も聞こえてくる。


閃光は少しづつ大きくなり、閃光同士が重なって巨大な閃光の塊になったりしている。


音も大きくなって魔王の笑い声になり、終いには恐ろしい怒りの声になった。


超巨大になった閃光の先は龍の顔をしている。

光り輝く龍は爆発音のような怒鳴り声を伴ってカチヨン隊を襲った。


「逃げろ! 魔王だ!」


カチヨンの叫び声で皆走った。


丁度道の先にトンネルの掘られた岩山が見えてきた。 其処を目指すしか無い。


トンネルまでは100㍍近くあった。

カチヨンが率先してトンネルに向ったが、金色に輝く閃光の龍達はけたたましい雄叫おたけびをあげながら一人一人に素早く回り込み、睨みつけ、高く飛び上がっては進路を塞ぎ、執拗に追いかけてくる。


「ギャー!」


悲鳴はネコビトだった。

2匹の龍が螺旋状にネコビトを囲んでグルグル回り、時々ネコビトに噛み付いている。


ネコビトは必死で龍を掴もうとするが、龍の素早さには到底追いつけない。

機敏な動きと鋭さは並外れている。


スウィンが、ネコビトを助けに走った。

龍に向って剣を振り上げた瞬間、2匹の龍は自ら剣に突進してきた。

龍達は剣に引き裂かれ、悲鳴をあげながら高く散っていった。


すると今度は他の龍達がネコビトを狙い狂気の目を向けた。


「ネコビト! 急いで!」


スウィンはネコビトの傍にピッタリ付いて、剣を掲げながら走った。


ようやくトンネルに入った。

皆荒い息をして座り込んだ。


「龍はどうして自滅したんだろう………

それにネコビトが特に狙われたのはどうして?」


スウィンの疑問に答えられる者は誰も居ない。


龍達は、トンネルの途中まで顔を入れてきたが、中に入り込んでくることは無かった。


相変わらずトンネルの外では、魔王の怒りに満ちた恐ろしい声が響いていた。


よく見ると、トンネルの中は道と同じような虹色をしている。

材質が同じようだ。

とするとこのトンネルも、道を造った者によって作られた可能性が大だ。

龍達の侵入を防ぐ対策も施されているのだろうか。

ということは、この場所で龍に襲われることを知っていたということか。

いったい誰がどんな魔法を使って…………?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る