第18話
【1】
陽射しがとても強い。
眩しくて何処に光源が有るのかさえ判らない。
空全体が発光しているように見える。
木々が疎らになってきた。
岩場が多くなっているが、道だけは相変わらず虹色で平坦に続いている。
この道を行く限り大丈夫だという安心感を与えてくれる。
皆水を飲む回数が増えて、数個有る水筒が空になり始めた頃、サワサワと清々しい音が聞こえてきた。
暫く下りを進んで行くと、斜め前方に谷川が見えてきた。
「おぉ〜!」
皆一斉に感嘆の声を上げた。
谷川を挟んで向かい側は、山のような威厳に満ちた岩壁で、
谷川の流れ、カチヨン隊の歩く音、ちょっとした声等々、全ての音が響き渡り
道は川沿いに続いており川すれすれに有ったので、道から出ずに水を調達できる。
この道を造った者の賢明さが伺えた。
水筒を持っている者達が水を
スウィンも、しんなり大人しくなってきた鳥花を早く新鮮な水に浸からせてやりたかった。
でも「あれ?!」
スウィンの足は川岸に着く前に止まってしまった。
「えぇ〜?!
何かおかしくない?
川の流れが逆だよ! 低い方から高い方へ流れてる!」
水際まで辿り着いた者達も
「えぇ〜!?」
と叫んでフリーズした。
ブラックが川に近づき、恐る恐る水に触れた。
それから手皿で水を一口飲んだ。
「水は大丈夫そうだ!」
そう言うとカップにたっぷりの水を汲んでガブガブと一気に飲み干した。
皆少しホッとしたようだが、胡散臭い思いは拭いきれない。
「どうせ魔王の嫌がらせさ!」
ブラックは投げ捨てるように呟いた。
「そろそろ水筒の水も底をつきそうだから、水が大丈夫なら構わないさ。 此処で汲もう!
既にブラックが毒見したんだから、良く無いことが起きるならブラックだけを犠牲にするわけにもいかない」
カチヨンが率先して水汲みを始めた。
「そうだよ! みんなで飲めば怖くないって!」
皆、不安をごまかすようにゲラゲラ笑いながら水を汲んだ。
スウィンが、小さな鳥花を得体の知れない水に浸すことに躊躇っていると
「僕も仲間だよ」
と真剣な鳥花の声が聞こえた。
「よし! 分かった! 今水替えしてやるね!」
スウィンは水際に近づいて、まずカップの水を替えた。
鳥花は活き活きと蘇って満足そうに鳥語の溜め息をついている。
スウィンも手皿でたっぷり飲んでから、水筒を満杯にした。
水の逆流を除けば気持ちの良い完璧に美しい風景だ。
それにしても、この水はいったい何処へ行くんだ………
緩やかな傾斜とは言え昇っていく水がつくづく不思議で、改めてスウィンは魔王の力の大きさを思った。
時間や空間の狂いにしても、生きもの達の変化にしても、何より森自体とんでもなく異常だけれど、それがあまりにも不思議過ぎてスウィンには正直髭爺さんのお伽噺くらい現実みが無かった。
だが水は日常の必須アイテムどころか生きものの存在理由そのもの、基本中の基本だからこそ、この異常さはいきなりスウィンに現実感を持たせた。
スウィンは冷静に川の流れを観察した。
驚く程透明な水。
深さもけっこう有りそうだ。
川底は岩や石のようで、その形や模様、色までがはっきり見える。
魚の気配は無い。
ここまで水が透明だということは、プランクトンもあまり存在してないのかもしれない。
水越しに見える岩々は、宝石のように美しい。
エメラルドグリーン、インジゴブルー、所々にピンク、オレンジ、ゴールド等々、様々な色が散りばめられている。
これも魔王の仕業だろうか?
スウィンは妙に感心した。
と、スウィンは目の前のひと際大きな岩が笑ったような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます