第17話

        【1】


でも!

スウィンは考え直した。


ケンタウルスやパンは動けるし、もし変化の結果だとしても、最初は不具合を生じたかもしれないが、今はあの状態を楽しんで満喫しているように見えた。

最初に会った女性樹だって、此処に居る樹達のように悲しげでは無かった。

むしろ、豊満な美しい姿に誇りさえ持っている様子に見えた。


『慣れる』ということが必ずしもマイナスとは言えないし、悲惨とも限らないかもしれない。


変な同情はやめようとスウィンは思った。

一方的な同情は、偏見にも通じる。


とは言え此処の人間樹達の悲しげな様子はただ事では無い。

いつか『慣れる』日が来るとしても、長い年月の末だろう。

それこそ伝説になるくらいの。

自分の意志で克服するまでは苦しみが続く筈だ。


魔王の身勝手な遊び心で、皆をもてあそんでいるのは絶対許せない。

この変化も魔王のせいなら、かく魔王を倒すことが先決だ。

スウィンはふつふつと魔王に対する憎しみが込み上げてくるのを感じた。


ふと考えれば、猫達の変化が完璧なことに今更ながら感心する。

ネコビトやヘンカジンや鳥花みたいな変化途中の状態が珍しいのでは無く、むしろ完璧に変化出来ることの方が奇跡なのかもしれない。

しかも5人一緒になんて凄い!


                      

「カチヨンと5人の猫さん達の変化は完璧ですよね。

ネコビトやヘンカジンが皆さんと一緒じゃ無い理由は何なんでしょうか?」


「どうも年齢と関係有りそうなんだよ。


私とブラック始め5人は、大体似た年代で君の親御さん位なんだけど、若ければ若い程変化に抵抗するエネルギーが強いみたいなんだ。


特にヘンカジンは時間の概念すら知らない年代だから、可也の抵抗だと思う。

彼の場合、時間の定まらない場所で生まれ育ったから、今の状態から推測するしか無いし、推測が違っている可能性もあるけど、推測では君と同じ8歳の筈だよ」


そう言われてみると、ケンタウルスもハックも若そうに見えたとスウィンは考えていた。

鳥花だって幼そうだし。


「人間樹達の人間の部分は若そうに見えるけど、樹の方は相当な年月が経っている感じなのはどういうことですか?」


「人間の部分は確かに君が言う通り私達より若い年代だろうね。

樹が豊潤な実をつけるには可也の年数が必要だし、年輪を重ねれば重ねる程熟して妖艶な美しさを醸し出すから年老いたものを変化の対象として選んだのかもしれない……


その結果、人間部分と樹部分の年齢差が変化を乱す原因になったとも考えらる」


「全部魔王の気まぐれから?」


つい大声を出してしまったスウィンは慌てて口を押さえた。

カチヨンは黙って大きく頷いた。


スウィンは荒い息を吐き出しながら苛々とその場を歩き回った。


「クッソ〜!」


カチヨン隊はまた出発した。


                       


歩きながらスウィンは、さっきカチヨンが言ったことを考えていた。

『君の親御さんと同じ位』の年齢………


スウィンが気づいた時には髭爺さんに育てられていた。

親は死んだと聞いている。


親についての知識を得た時から、ずっと当たり前なこととして髭爺さんが親だと思っていた。


でも、少しづつ疑問を感じ始めた時期がある。

髭爺さんは『親』にしては年老いていたし、自ら髭爺さんと呼ばせているのが不思議に思えて、髭爺さんに訊ねたことがあった。

スウィンが5歳位の頃だ。


その頃髭爺さんは体調が悪くなっていて、『もうすぐ100歳だから』と言うのが口癖だった。

そして、元気を無くしていくのと反比例して、焦ったようにスウィンへの教育が厳しくなり、レベルアップしていった時期でもある。


いつもはどんな難解なスウィンの質問にも丁寧で完璧な答えを返してくれた髭爺さんが、『親』に関する質問への返答はただ一言『死んだよ』だけだった。

スウィンもそれ以上聞かなかった。


幼いながら気を使って、髭爺さんが両親のどちら側のお祖父さんなのかも聞かないまま、結局スウィンが一人残された。


                           


カチヨン達と同年代の親……… 実感が無い。


改めて親と言う存在に思いを巡らしてみる。

浮かぶのはやはり髭爺さんしか居ない。


それから、カチヨン達と親、ヘンカジンとスウィンを考えた時、この森での年齢を森の外での年数に換算すると何歳になるのかチラッと脳裏を過ぎったけれど、混乱しそうなので直ぐ消去した。

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