第16話


        【1】


「落ち着いて説明して!」


「私はカチヨン様が統べる国で生まれ育ったキララと申します。


この近辺で父母と一緒に歩いていたんですが突然父母が消えてしまって、捜しているうちに私もこんな状態に……」


「もう大丈夫!

この道から出なければ、君はこのまま僕達と同じ時間の中で同じ方向に行けるから。


君のお父さんとお母さんもきっと他の時間か他の場所に居るよ」


「時間?」


「そうか、君も時間の概念を知らずに育ったんだね。

こんな経験はよくあるの?」


「皆一緒に場所が変わったりすることはあるけど、バラバラには無かった………」


「初めてってことか……… と言っても時間がめちゃくちゃだと、初めてで無い可能性もあるか………」


カチヨンと猫達とポロンが大きく頷いた。

スウィンの胸でハックが頷く気配も感じられる。


「魔王が力を強めているのかもしれない」


ホワイトが呟いた。


「そうそう、魔王の姿を見たってあちこちで聞いたから、それをカチヨン様にお伝えしたかったんです!それでもう一度お会いしたいと……」


「そうだったんだね。

私もどんどん魔力が強くなっているのを感じているよ……」


カチヨンは少女の耳元で囁いた。


「君はどうする?

僕達はいろんな目的の為にこの道を進んでいるんだけど。


囁き情報は君にも届いた?」


「囁き情報って?」


「さっき迄の状態じゃぁ、情報を聞く余裕も無いもんな」


スウィンは出来る限り手短に小さな声で『囁き情報』をキララに伝えた。


「私も行く! 両親を捜しながら!」


スウィンはキララの澄んだ瞳を見つめながら深く頷いた。

同志が出来た気分だった。


カチヨン隊は再び歩み出した。


                       

樹王の口からこの森に入ったばかりの頃、スウィンは大勢の不思議な生きもの達に出会った。


まずはポロン、ハック、樹王のお母さん。

半人半馬のケンタウルスや半人半獣のパンは髭爺さんが読んでくれたお伽噺にもよく出てきたけれど、美しい女性の姿をした樹はスウィンが初めて出逢った生きものだった。


ある一画に、その樹が勢揃いしている場所が有った。

どれも可也年輪を重ねた風情の樹々で、女性は勿論男性の姿も有り、皆彫刻のように美しい。


カチヨン隊の全ての者がその美しさに心を奪われ暫し呆然と見惚れていた。


彼等は、カチヨン隊の方をチラリと見ただけで無表情。


血の気の無い青白さが、余計美しさを際立たせている。


だがスウィンにはその理由が少しづつ分かってきた。


彼等は変化したのだ。

元々は人間の容姿か、人間では無いにしても自由に動ける生きものだったに違いない。

そして変化によってこんなふうに動けなくなってしまったのだろう。


自由に動くことを経験した者が、動きを封じられたら拷問と言ってもいい。


カップの中の鳥花が涙を流していた。

鳥花は彼等と全く逆の立場であったし、今は同じ立場でもあるわけだから、樹達の気持ちを思ってたまれないのだろう。

スウィンは鳥花の花弁をそっと撫でてやった。

そして何とかしてやりたいと思った。

でも、どうしようも無い。


この道だって、時間と方向の調整は出来ても変化に関しては無力だ。

仮に樹達がこの道へ移動出来たとしても、鳥花のように中途半端な状態になるのがオチだろう。

しかも、そのまま同じ状態で時間が進んでいくのだ。

寧ろ、時間が出鱈目なら、ちょっとした拍子に具合の良い状態が訪れる可能性が無いとは言えない。


スウィンはハッとした。

鳥花も道から外してやった方が良いかもと思ったからだ。

鳥花はと言うと、バスタブに浸るような格好で2枚の葉っぱをカップの縁に置き、気持ち良さそうに一人お喋りを楽しんでいる。

取り敢えず今はこのままにしておこう。


樹達の状態が、もし鳥花やネコビト、ヘンカジンと同じように変化の中途半端な状態だとしたら、道に移ったことで再度変化した時今よりもっと悲惨な状態になるかもしれない。

時間と方向以外のことでこの道を勧めるのはやめた方が良さそうだ。


ひょっとして、ケンタウルスやパン達も、変化の途中なのだろうか…………?


お伽噺の生きもの達は、元々の種族なのでは無く変化し切れないで居る者達だとしたら………

お伽噺として伝説になる位の長い時間で変化に慣らされているだけかもしれないではないか………


その苦しみを思うと………


スウィンは考え込んでしまった。

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