第14話

        【1】


「今こうやって旅をしていても、勝手に時間が戻ったり、いきなり先に行ったりするの?」


「この道を進む限り大丈夫!

方向だけで無く時間も前進するんだ。

だから道を外れないように気をつけて!


ただ生物変化だけは抑えられないけど………」


ヘンカジンはそう言いながら項垂れた」


「さっき魔王を倒すことは出来ないって言ってたけど、例えばさぁ、人間の世界では病気で倒れたり死んだりする。

僕達が魔王の一部的存在なら、この森の、つまり魔王の中の大多数が魔王に抵抗すれば魔王は死ぬかもしれないよね……」


レディ ミラーが皆に助けを求めているのはその為かもしれないと思ったが、用心してそれは口に出さなかった。


スウィンは魔王に聞こえないようヒソヒソ声で話したのだけれど、ヘンカジンは怯えたように指を口に当て「しっ!」と言った。


『既に遅し』かもしれない。

魔王は自分の中で抵抗を試みる小さな者達なんか鼻で笑うのだろうか……。


だが、傍で話を聞いていたポロンとハックにはしっかり伝わっていた。

そして二人とも自分の果たすべき役割を自覚し改めて胸に刻んだ。


                       


皆寡黙になっている。


暫く歩いて行くと、道沿いの小花達が一斉に動き出した。

踊っているような奇妙な動きだ。


「何事?」


立ち止まって見ていると、花達は少しづつ半透明になっていく。


「変化の瞬間ですよ」


ホワイトが呟いた。


スウィンがなるほどと思いながらも呆気にとられて見ていると、花の姿が消える寸前全く違う種類の花がダブるように現れて、遂には元の花と入れ代わり、くっきりと変化して現実のものとなった。

その様子は幻想的でとても美しかった。


中には、花から小動物や虫などに変化する者もあった。

それ等は自分の変化に暫く狼狽えていた。


面白いことに、まるっきり違う種類への変化でありながらそれぞれの面影が残っている。

色形では無く、もっと深い部分から滲み出る面影だ。

魂とでも言うべきか……。


魂は人間だけで無く、全ての生きとし生けるものに与えられているのだとスウィンは感じ入った。

そして、人間擬きから人間に変化し、人間から猫に変化したカチヨンとその仲間達の面影を一人一人辿ってみた。


                     ポロンが花々をでながら何か囁いている。

その囁きを聞いた花が隣りの花に囁き、またその花が隣りの花に囁いて、次々にそれが連鎖していった。

連鎖が広がるに連れ、緊張も広がっていくのが分かる。


それを見て5人の猫達が突然大声で冗談を言い合ったり笑ったりし始めた。

ポロンの囁きが魔王に聞こえないようガードしているのだ。


咄嗟に全てを理解したスウィンは、ネコビト、ヘンカジン、ハックと共に周囲を警戒した。


あちこちで同じことを繰り返せば、あっという間にレディ ミラーの伝言が森中に伝わるだろう。

魔王を倒す為に立ち上がる時がきた!


                      

それからはポロンだけで無く、猫達もハックもスウィンもあちこちで囁きながら歩いた。


囁きを聞いてスウィン達の仲間に入る者達も居り、カチヨン隊はどんどん人数が増えていった。


最初花から変化して虫や小動物になった数人も、気づかないうちに付いて来ていた。


小鳥に変化していた者が一人、調子にのって高く飛び過ぎたせいで、道から外れてしまったらしい。

あっという間に花の姿に戻り道端に落ちてきた。


スウィンが慌てて駆け寄ると、まだ花芯から鳥のクチバシが突き出ていて小さな鳥の瞳が悲しそうに空を見つめていた。


「大丈夫! 僕が連れていってあげるよ」


スウィンが慰めると、鳥の目から涙が溢れ、鳥顔の花が大きく頷いた。


しんなり項垂れている、帽子を被った赤ん坊のような鳥花を気の毒に思ったスウィンは、水筒のカップにたっぷりの水を入れ、その中に鳥花の茎を浸して持ち歩くことにした。


ほどなく鳥花はシャキッと元気を取り戻し、ペチャクチャお喋りを始めた。

雲雀のような賑やかさでクチバシを細かく動かす様子から、動けない花だった頃どんなにお喋りしたがって居たか、空を自由に飛びたがって居たかが窺える。


スウィンに鳥語は皆目解らないけれど、嬉しそうにお喋りする鳥花を見ていると、なんだかスウィンまで楽しくなってきた。

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