第13話

        【1】


連隊を組む程の人数でも無いし、それぞれ個性豊かな者達の集団なので、皆思い思いに歩き出した。

 

「それと…… 私を王子では無くカチヨンと呼んでください。

仲間ですから」


「王子様を名前で呼び捨てにするのはちょっと抵抗あるけど、その方が僕も気分的に楽です」


これまでずうっと『プリンス カチヨン』と呼び続けてきたポロンとハックの方がスウィンより遥かに抵抗ありそうだ。


「他の皆さんは何と呼べば良いんですか?

アナタのお名前は?」


黒猫に尋ねてみた。


「□#§△%*∵です」


「はい?」


「□#§△%*∵………」


「あのう…… 何だか分からん………


僕の分かりやすい呼び方をしても良いですか?」


「もちろん!!」


皆大笑いした。


「じゃ、ちょっと単純だけどすぐ分かるようにアナタはブラック、アナタはホワイト、アナタはグレー、アナタはブチ、アナタは〜ブラウンのラインが有るからブライン、それからアナタはネコビト、そして君はヘンジン?あっ、いや失礼、そのままヘンカジン。


マンマな感じがイマイチだけど、取り敢えず宜しく!」


                       


再び皆黙々と歩き始めた。


王子であるカチヨンがとても温和だから仲間達も感じが良いのか、もしくはポロンやハックは勿論、これまで会ったこの森の生き物達の多くが穏やかだったことからしても、森自体が皆を穏やかにさせているのかスウィンはずっと考えていた。

スウィン自身もこの事態なのに気持ちがゆったりしてきているからだ。


そして、この驚異的にスローな時間の流れこそが、その源なのかもしれないと思い始めた。

ただそう考えると、魔王の存在理由が解らなくなる。


髭爺さんを捜す旅は、様々な裾を広げ多くのことを解明出来るだろうと思うと、スウィンの強い好奇心がムズムズと蠢き出しワクワクしてきた。


スウィンは一番自分と歳の近そうなヘンカジンに話しかけてみた。


「君何歳?」


「何て言った?」


「年齢だよ。 僕は8歳になったばかりだけど」


「年齢?」


「年齢を知らない?

君が生まれてから今までの時間…」


ヘンカジンは困り顔だ。


すると、ブラックが中に入ってきた。


「此処では時間と言う概念が無いんだ。

この辺りに充ちている不穏なエネルギーは、いろんな形でいろんなことに影響しているから、時間も此処では無意味なんだよ。


我々は代々受け継いできたモデルケースとしての時間と言うか、昔存在していた『時間』の知識は持ってるけど、時間が一定では無いこの森で自分がどの位生きているのか想像は出来ても実際は分からない。 証明も出来ない。


しかもヘンカジンは我々より可也若い筈だから、時間や年齢を理解するのは難しいかもしれない。


だけど実は見た目が幼く見えるだけで、ヘンカジンの方が我々より早く生まれたかもしれないんだ。

我々がヘンカジンが生まれた現場に居たから、その可能性は少ないけどね。

でもゼロでは無い」


スウィンは頭が混乱してきた。


「もっと先には、時間が全く存在しない森も有るらしいんだ」


「時間が存在しないって………


時間が無いとどうなるの?

其処はどんな世界なんですか?」


「私にも分からないね………」


「皆さんは時間を移動出来るんですよね」


「自分の意思とは関係無くだけどね。


いつだったか、いきなり自分がまだ生物として生まれていなかった時間に移動して、魂だけの自分を見つめていたこともあるよ。 笑えたね!」


「えぇ〜! 笑えないですよ! 

だいたい魂だけの自分てどんななんですか?!

どうして自分の魂だと分かったんです?」


「直感だよ直感!

モヤモヤ〜っとした感じ! だけどビリっと鋭い!」


ブラックにからかわれているとスウィンは思った。

ブラックの冗談に流されないよう気をつけようと思いながら、ブラックの話を完全に否定することは出来ない。


「じゃぁカチヨンの予言もそういうことなんですか?」


「いや、カチヨンの場合は、それをある程度操れるっていう意味では『予言』と言って良いと思う。

なんて話してる今は、生物として誕生する前の魂だけの私が、その時間から移動してきた未来かもしれないね。


仮に魂だけの私が居る時間が現在と言う確実なものとして存在していて、その時を基準にするなら、今この現在は未来ってことになるけど、どっちにしたって今は今、こうして我々が生きて髭爺さんや女王様を捜しているこの今は幻覚でも作り話でも嘘でも無いんだから何の問題も無いわけだけど」


「本当に問題無いかなぁ………」


スウィンは髭爺さんから様々なことを学んでいたので、8歳の子供にしては大人並みの知識を持っていたけれど、この森は、スウィンが8年の間に得た知識の範疇外だ。


しかも、髭爺さんが毎夜聞かせてくれたお伽噺の世界程甘くも無さそうである。


しばらくは頭の中であらゆる知識が交錯し、悶々と歩き続けた。

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