第4話

       【1】


スウィンの迷いは無くなった。


「じゃ、行きましょう !


ようこそ森へ!」


ポロンは微笑みながら恭しく挨拶した。


再び最初に見たステンドグラスのような羽の姿に戻っている。


「爺ちゃんを捜せるということは、僕も死ぬの?」


「大丈夫 ! 死なない死なない !」


ポロンはそう言いながら、戯(おど)けた表情でウィンクしたけれど、スウィンには今一信じ難い。


だけど、もし死んだとしても構わないと思った。

髭爺さんの居ない世界でたった独り生きることを考えると、寧ろその方が良いのかもしれないとさえ思える。


森の中は自家発光でもしているように明るくて、とても美しい。

様々な木々が生い茂り、花々が色鮮やかに咲き乱れている。

甘い香りが漂い、小動物達の気配でいっぱいだ。


スウィンはあちこち眺めては珍しさと感動で歓喜の溜息を漏らしながら、ポロンに付いて行った。


                       

暫く歩いた小高い場所で、花々や小さくて愛らしいモフモフの生き物達に囲まれたオサゲ髪の少女に出会った。


クスッとポロンが笑った。


「あ、あのぅ……」


スウィンが少女に声をかけた瞬間、少女の姿が揺れて崩れた。


少女は無数の細かい輝く破片となって散らばり、チリチリと愛らしい音を奏でながら素早く飛び去った。


「皆、私の仲間達よ! 悪戯好きなの。

君を歓迎してるわ !」


少女を作っていた光の粒は妖精達だったのだ。


「妖精達は素朴な人間に憧れてるの。

だからいつも、あんなふうに皆で人間の姿を模倣するのよ。素敵でしょ !」


                       

モフモフのチビっこい奴らも、スウィンの周りで楽しそうにピョンピョン跳ねている。

スウィンは思わず笑みを漏らした。

髭爺さんを失ってから初めての笑顔だった。


この森に人間が入ることも初めてだ。

だから森の生き物達総てがスウィンを珍しがって歓迎しているのを感じた。


そして、スウィン自身にとっても珍しいものばかり。


「爺ちゃんを捜せる世界って此処?」


「此処はただの森。髭爺さんと君が生きていた世界の。


この森を3日程歩いた所に居る樹王の口が、その世界へ入る道なの」


「樹王って?」


「行けば解るわ」


「その世界は此処とどんなふうに違うの?

死んだ爺ちゃんをどうやって捜すの?」


「此処とは比べものにならないくらい美しくて、何もかもが此処とは違う !


髭爺さんを捜せるけど、見つけるのは容易たやすいことじゃ無いわ。


君の、絶対捜すという強い意志と忍耐が必要よ。


人間界の君にとってはいろんな障害が待ち受けているかもしれない。

その覚悟を持って初めて死者を捜せる世界なの」


「そんなに恐い所なの?」


「君の意志が崩れない限り大丈夫 !」


「爺ちゃんを見つけるよ絶対


でもポロンは一緒に行けるの?」


「君が望むならね」


「もちろん! 傍に居てもらわないと困る。


その世界に入る前に、僕が爺ちゃんの姿を忘れないよう妖精達がさっきみたいな爺ちゃんの姿を見せてくれないかなぁ……」


「それは止めた方が良いわ……


今の君はまだ心が弱ってる………

その状態で失った愛しい人の姿を見るのは危険よ。

人間があの世界に入る為に不可欠な強さに揺らぎを生じる恐れがある」

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