第6話 大団円
田丸は、案の定、警察に詰め寄られて、
「捏造」
してしまった。
あたかも、
「その男が怪しい」
という感じで証言したことで、警察は犯人に、その男が絡んでいるとみて、捜査をするようだった。
しかし、あとから聞いた話では、死亡推定時刻から、自分が発見するまでに、数時間が経っており、犯人に関係があるならば、
「なぜ逃げなかったのか?」
ということが問題になるのだった。
「犯人心理であれば、普通ならできるだけ遠くに逃げたい」
ということを思うのが当たり前だというものだ。
しかし、その男は逃げようとはしなかった。
逃げ出すわけではなく、どちらかというと、
「第一発見者が誰か?」
ということを探っていたかのようにも思える。
これは、田丸が、
「臆病な性格だ」
ということから、自分で感じることだった。
臆病な性格だからこそ、余計に、いろいろ考えてその中で、一つの結論を得るのだが、意外とそれが的を得ていたりするのだ。
しかし、それも、臆病なだけに、的を得ているということを自分で信じられないという心境になるのであった。
それを思うと、
「俺は一体、何をしているのだろうか?」
ということを考えてしまう。
一つは、
「臆病なことで、神経が一点に集まってしまって、周りは見えないが、一点だけを見つめるその時が、的を得ているということではないだろうか?」
ということは、
「臆病なるがゆえに、真剣に状況を見ていて、その真剣さというのは、大人の対応ができる冷静さと同じ力を持っているとすれば、納得できることではないかと思うのだ」
確かに、臆病だと、見える視点がどうしても狭くなってしまう。
しかし、それが悪いことだといえるのだろうか>
決して言えないのではないかと思うのだ。
自分にとって、何が大切なのかということを考えると、
「見えているものを、いかに判断できるか」
ということであり、それが、的を得ていれば、
「それに越したことはない」
といえるであろう。
そういえば、今まで生きてきた中で、時々、
「時系列が意識的に、前後している時があるような気がするな」
と感じることがある。
「小学生の時の記憶よりも、高校生の時の記憶の方が、ずっと昔に感じられたことではないか?」
と感じられることが往々にしてあるというものであった。
それを思えば、
「中学時代や、高校時代というのは、受験受験で、あっという間だったが、本当であれば、思春期ど真ん中のはずなのに」
と思うと、
「これほど、もったいない時期があろうか?」
と感じるのであった。
逆にいえば、
「それだけ多感で思春期という一種の力を持った時期だったからこそ、受験勉強もできたのではないか?」
と感じるのだった。
「人間。いい方に考えれば、考えられないこともない」
といえるのではないだろうか?
今回の捏造は、ある意味、
「かなりでたらめな内容だった」
と言えるだろう。
それも当たり前のことで、
「もし、その恰好に該当する人がいれば、その人がいわれのない犯人いしたてあげられるからだ」
ということである。
もし、その人が、数年の刑期を課せられ、それを終えてから、
「自分を密告したやつに恨みがある」
ということで、殺意を抱かないとも限らない。
臆病な人間は、目先のことしか考えられないと思われがちだが、意外と、普通の人が考えないようなことを考えてしまうという、傾向があるといってもいいだろう。
それを考えると、
「捏造をするのでも、普通はありえないような奇抜な人をいうのが普通であろう」
ということである。
「他であれば、普通にありなのだが、ここでは、そんな人はいない」
というような、そんな感じにであった。
実際に警察に聞かれた時もぎこちない雰囲気で話をしたのだが、それも当たり前のことで、ただでさえ、臆病で、人と話すのも、緊張で倒れそうな状態だということは、刑事だったすぐに看破することだろう。
だから、いくら平静を装っても、結局は、
「どちらが本当なのか?」
という、いらない思いをさせることで、下手をすれば、こちらの容疑が深まるのは困るのだった。
捏造自体が、
「相手に、疑われないよにするためだ」
ということなのを考えると、それも当たり前のことであり、
「少しぎこちないくらいの方がいいだろう」
ということで話をしたのだが、
「なんだ、これだったら、いつもと変わらないじゃないか?」
ということであった。
ただ、一つ考えたのは、
「臆病者に、二重人格者はおかしい」
という思いが、心のどこかにあるのだ。
それがどういうことなのかというと、臆病者というのは、
「どっちかに、考えが偏ると、次第に不安が募ってくるもので、だから、何かを考える時も、一点集中型となって、いろいろなパターンを考えることができなくなる」
という。
つまり、
「恐ろしさに目をつぶる」
ということをどうしても考えてしまうので、本来であれば、
「最悪の事態に備える」
ということができず、
「一番の苦手なことだ」
ということになるのだろう。
それを思うと、
「これが、臆病者の自分の一番の欠点なのではないだろうか?」
と考えるのであった。
そして、それを知ってか知らずか、警察の尋問にも、何とか無難に答えることができた。
しかし、ちょっと気になったのは、
「相手から質問や、再度の確認が何もなかったこと」
であった。
「俺の話に何も疑問もないということか?」
と考えたが、それが警察のやり方だと思うと拍子抜けである。
しかし考えてみると、
「話だけは形式的に聞くが、しょせんは、話を捜査のあてにはしていないというか、まったく話を信用していない」
ということになるのだろう。
「だったら、聞かなきゃいいのに」
と思ったが、警察とすれば、関係者には、必ず聞いておく必要があるだろう。
要するに、
「何が大切で、何が大切でないか」
ということを考えるということであろう・
刑事は、案の定、田丸の話をあてにしていないように、捜査を続けていた。
そんなことを田丸は、何もしらなかったのだが、その刑事が、今度は田丸が忘れた頃に、訪れてきたのだった。
どういうことなのかというと、
「田丸さん、申し訳ないんですが、もう一度、あの時の目撃した人の話をしてくれませんか?」
というではないか。
さすがに田丸は焦ったが、とりあえず、とりつくろたかのように、思い出しながら話をした。
何といっても、最初から、
「でたらめ」
を言っているのだから、
「もう一度言え」
と言われて、いえるはずもない。
もっといえば、普通に目撃した人でも、一度話してしまったことは、それまでは、
「意識」
だったものが、今度は、
「記憶」
という方に格納されたのだから、分かるわけもないというものだ。
さらに、田丸としては、そもそも、意識もしていないのだ。
「記憶」
というところを探しても、見つかるわけなどないからである。
それなのに、刑事が聞きにくるというのはどういうことか?」
というものである。
「刑事として失格ではないか?」
と思いたいほどだった。
実際に、刑事がへりくだって、
「本当にすみません。これはここだけの話にしてくださいね。他の連中にバレると、こっぱずかしいもので」
というのだが、それが、
「最初に尋問したあの時の刑事か?」
と思うほど、完全に別人であった。
それは、まるで、
「相手を欺く時のような気がして」
それを思うと、
「簡単には信じてはいけないのではないか?」
ということであった。
しかし、これは実に不思議なことであったが、
「犯人が捕まった」
というのだ。
それは、話を聞きに来た刑事も唖然とすることであり、なんと、
「田丸が証言したものと似た人物がいた」
ということだった。
その人は、本当に罪を認め、
「犯人だ」
と自白を下という。
「どういうことなんだ?」
と一番びっくりしているのは、でたらめな証言をした田丸と、へりくだった態度で、話を聞きにきた、あの刑事だったのである。
実際に、捕まった犯人の自供により、本当の犯行が暴露されてくると、その犯行の動機や、犯人像というものは、聞きに来た刑事の創造、いわゆる、
「プロファイリング」
と同じだったという。
それを思うと、その刑事が本当に素晴らしい刑事だと言えるが、まさか、証言通りだったとは思ってもみなかった。
「そんなバカな?」
というのが、まさにその通りの発想だったといってもいいだろう。
ただ、一つ言えるのは、
「どんなに反抗を見抜いたとしても、その人間の本質までは無抜くことはできないのかも知れない」
ということである。
それが、今回の事件であり、そこに、別に、
「謎らしき謎」
というのはなかったのだが、
「それこそが謎だ」
と言ってもいいのではないか?
それを思うと、今回の事件は、
「捏造が、偽造となり、真実になった事件」
ということになるのではないだろうか?
( 完 )
捏造が、偽造となり、真実になった事件 森本 晃次 @kakku
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