晴臣:恐怖!破られざる掟
すでに夕暮れが迫り、霧が濃く立ち込め始めている。村全体が不気味な静けさに包まれていたが、真希の表情には、これから撮影する映像がバズるかもしれないという期待で満たされていた。
「カメラを回しながら広場にもう一度戻ろう。何か動きがあるかもしれない」真希が言うと、晴臣は黙って頷き、またメガネのつるをとんとんと叩いてスイッチを入れる。すぐに演者の人格が再生される。2人は手に入れた僅かな情報を元に、何としてもメカクシ様の姿をカメラに収めようと躍起になっていた。
その時、ふと見覚えのない男たちが村の道を歩いているのに気づいた。彼らは明らかに外部の人間で、何かを探しているように見える。おそらく村長の家で話をしていた人たちだろう。晴臣は直感的にその中の1人、痩せた長身で黒髪にくたびれた様子の男――
「真希、あの人たち、村の人たちじゃないみたいだな。ちょっと話を聞いてみよう」晴臣はすかさずカメラに向かって声を張り上げた。「視聴者の皆さん!今から村で出会った人にインタビューしてみます!」
ハイテンションでカメラに向かって話す晴臣に、真希はカメラを回しながら微笑んでいた。
「すみませーん!」晴臣が声をかけ、瀬文たちの元へ近づいていく。瀬文が彼を見返すと、その鋭い眼光に一瞬驚きつつも、晴臣はいつものテンションで話しかけた。「どうも、ハルマキチャンネルのハルです!ここで何してるんですか? 記者さんですか?」
瀬文は少し戸惑いながらも短く答えた。「ああ、記者だ。調査でここに来てる。勝手に撮るな」
晴臣はすかさずカメラに向かって演出を強化する。「おおー、ここで記者に遭遇!これはすごい展開だ!この村、ただ事じゃないですね!」都合の悪い「勝手に撮るな」のところは聞こえなかったふりで乗り切ってみる。
そのハイテンションぶりに、白崎は引いた様子で少し後ろに下がる。「すごい元気だな、この人……」と小声で呟く。
「それで、メカクシ様について調べてるんですか?」晴臣はカメラ越しに煽るような調子で聞く。
瀬文は冷静に答えた。「まあ、そうだ。掟を調べているところだ。勝手に撮るな」
「俺たちもメカクシ様を追ってるんですよ!動画の撮れ高、めちゃくちゃ期待してるんです!」晴臣は笑顔で手を大きく動かしながら続ける。「いやー、この村、ヤバいっすよね!」
そのテンションにさらに圧倒された白崎は、微妙な表情で瀬文に視線を送っていた。「この人、ずっとこんな感じなんですかね?」
瀬文は苦笑いで話を続けた。「……村の掟を破れば災が降りかかると言われている」
「へえ、そんな掟が……?」真希がカメラを回し続けなら、興味津々といった様子で質問を投げかける。
「ついさっき、村の
真希の手元のカメラがさらにズームされ、白崎を捉える。
「もしメカクシ様が本当に熊のような類の獣なら、外にいるのは危険だ。お前たちも、一緒に避難した方がいい」瀬文は真剣な口調で彼らに警告した。
だが、晴臣はすぐにその提案を断った。「いや、大丈夫です。俺たちには別の当てがあるんで!」
瀬文は晴臣の態度に不審なものを感じつつも、それ以上追及しなかった。「分かった。俺たちは清美くんの家に避難する。もし危険を感じたら、あそこに来てくれ」といって清美の家の方を指差す。
「あと、たぶん、メカクシ様を撮影しようだなんてしない方がいいぞ」瀬文は最後に釘を刺していった。
二人は村の中心部に戻る途中、瀬文の警告も忘れたかのように、どこに潜んでメカクシ様を撮影するかを検討していた。「広場のベンチのあたりが一番見通しがいいんじゃない?」と真希が提案する。
「確かに……でも、目立ちすぎる。もう少し隠れられる場所がいい」晴臣は少し考え込みながら、周囲を見渡した。
その時、不意に広場からかすかに声が聞こえた。
「はじまるでば……」老婆のかすれた声で、その古い東北訛りの言葉が静寂の中に響く。
「……おそらく伝承守の声だ」真希が顔をこわばらせる。
その瞬間、地面が僅かに震えた。次に、どこからともなく重い足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
「……本当に来るのか?」晴臣は一瞬足がすくんだように感じたが、すぐにカメラを構えた。
「撮るしかない……!」
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