晴臣:東北の因習村で神の姿を暴く!

「ハル、準備はいい?」


 高田晴臣たかだはるおみは、金子真希かねこまきの声を聞くと、眼鏡のつるをトントンと叩いて無口な表情から瞬時にハイテンションな表情へと切り替えた。まるでスイッチが入ったかのように笑顔を作った。


 真希が軽く頷き、カメラを回し始めると、晴臣はカメラのレンズを睨むように見つめ、テンション高く語り出す。


「皆さん!お待ちかねのハルマキチャンネルだ!今日はなんと、謎の掟に囚われた村、深谷しんたに村に来ちゃいましたー!この村、マジでヤバイんですよ!何がヤバイかって?聞いて驚くなよ!」


 晴臣は両手を大きく動かし、カメラに向かって観客を煽るように話す。普段は無口な彼がカメラの前では別人のように振る舞う姿に、真希はカメラ越しに微笑み、自分も演者として声を出した。


「ここには、メカクシ様っていうとんでもない神様がいららしいんです!その神様は……姿を見ちゃいけないと言われています!なんとも眉唾な話でしょう〜?」


 晴臣は驚きを演出する効果音を思い描き声を張り上げた。


「『見ちゃいけない』って、どういうことかって?俺たちが確かめてやる!」と、晴臣はカメラに向かって指を突き出し、大げさに叫んだ。


 真希はそんな晴臣を撮影しながら、編集後のタイトルを考えていた。『東北の因習村で神の姿を暴く!』――そんなキャッチーなタイトルを頭に浮かべながら、カメラのアングルを調整する。


「じゃあ、早速行こう!村の広場には、何か手がかりがあるかもしれない!」


 二人が広場に到着すると、霧が広がり始め、古びた石造りのベンチが見えてきた。


「よーし!ここが深谷村の中央広場だ!ヤバイことが起こりそうな予感しかしない!」晴臣は広場に飛び出し、両手を広げてカメラに向かって大声を張り上げた。


「村の掟、そして俺たちが追いかけてるメカクシ様の手がかり……全部あるかもしれないぞー!」


 晴臣がテンション高く話しているその時、背後から鋭い声が響いた。


「おい、何しとるんだ!」


 振り返ると、村の青年団員らしき二〇代の若い男が、怒りの表情で彼らに向かってきた。


「ここで勝手に撮影すんな!」


 晴臣は一瞬驚いたが、すぐにテンションを保ったまま笑顔で返した。「あ、どうもー!俺たち、YouTuberのハルマキチャンネルです!いやぁ、撮影なんて大したことじゃないですって。ちょっとこの村の掟を調べさせてもらってるだけで!」


 真希が焦りつつカメラを止めようとするが、晴臣は目配せし撮影の継続を示した。さらに青年団員に食い下がる。


「ねえねえ、メカクシ様のこと、教えてくれませんか?視聴者のみんなも知りたがってますし、めちゃくちゃ面白いネタになるんで!」


 青年団員はそれに対し、さらに険しい表情を作りながら詰め寄る。


「おめぇ、なめてんのが。ここさ来たんなら、そったらこと軽々しく聞ぐんじゃねえ!」


「ちょっと待ってよ、俺たち真面目に取材してんだって。視聴者が楽しみにしてるんだからさ、ちょっとくらい大目に見てくれよ!」 晴臣は笑顔でカメラを指差すが、青年団員はさらに激しく迫った。


「掟だぞ!村さ掟破る気なら、二度とここさ踏み入れさせねぇぞ!」


 真希がすかさず、「ハル、もう行こうよ」と声をかけ、カメラを抱えその場を去ろうとする。晴臣も一瞬迷ったが、青年団員の勢いに押されて後退した。


 二人は急ぎ足で広場を離れ、人気のない通りにたどり着いた。晴臣は眼鏡のつるをまたトントンと叩いて、急に無口な姿に戻り、息を整えながら真希を見た。


「……まずかったな」


「本当だよ。あんた、普段は無口なくせに、カメラ回してると暴走するんだから」と真希は苦笑いしながら、映像を見返していた。


「でも、メカクシ様の話……本物っぽいな。もっと調べないとな」晴臣はボソリと呟いた。


「うん、かなり面白い映像が撮れた。もっと追いかけようよ」と、真希が少し悪戯っぽく笑った。


 二人はさらに歩き続け、やがて村長の家の庭に迷い込んだ。庭には柵もなく誰でも立ち入れる状態だった。田舎の防犯意識は低いと聞いていたが、ここまでとは思わなかった。中から誰かが話している声が聞こえてくる。晴臣は耳を澄ませ、家の壁際に近づいた。


 屋内からは、若い男の声と、村長らしき年配の声が聞こえてきた。


「清美くんの両親の行方について調べています。まずは村長さんにご協力をお願いしたいと考えまして……」


 晴臣は眉をひそめ、じっとその会話を聞き続けた。どうやら、村にはまだ隠された秘密があるらしい。人が行方不明になっているだと……?


「ハル……誰だろうね? 村人じゃないみたい」と真希が囁いた。


「……取材してるっぽいな」晴臣はボソリと呟いた。


 真希はカメラを再び構え、悪戯っぽく笑いながら言った。「音声だけでも残そうよ」


「だな」と晴臣も無言で同意し、スマホを取り出し、録音機能を起動させた。躊躇する様子もなく、窓に向けてスマホを差し出す。


 二人は声を殺しながら、会話の内容を静かに録音し始めた。


「メカクシ様は、獣の姿をした神聖な存在だ。この村を守るためにおわすが、その姿を見てはならねぇ。古い掟だ」


 会話の断片が録音される中、真希が楽しそうに囁く。「ビンゴ。これ、後で動画に使えるんじゃない?」


「うん。これは使える」


 二人は密かに録音を続け、村の秘密がさらに明らかになるのを待っていた。

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