第19話

「リカコさんは」


「え」


「目がお悪かったようですね。お客様はやはり、その眼鏡が最高にお似合いでございます。前回お目にかかった時の眼鏡のほうが、よろしくない」


「……あはは。夢でリカコに伝えるよ」


「いいお考えです」



リカコが最悪だと言った眼鏡を最高だというリカ。



甘いカクテルを飲む俺を見ながらリカは言った。



「私がこの仕事を始めたばかりの頃、上司である尊敬するバーテンダーが……『人と言うのはマグネットみたいなもんだよ、どんなに想っても縁がなきゃどんどん離れていくんだ。でも、縁があればピタット吸い付くだろう? 磁力が弱いもの同志ならくっついてもすぐに離れるし、どっちかが強きゃ相手は窮屈だ。丁度いいマグネットみたいな出会いがあるんだよ』と、言っていました」


「……マグネット」


「うまいこといいますよね。ホント、そうだなぁと、実感しています。惹きあうというのは本当にあるのですね」



俺はカクテルを飲み干すと財布を出した。



「これは、私からのサービスでございます。問題の答えですから」


「ちゃんと払うよ?」


「では、大事なお約束の時に美味しい紅茶でもゴチソウして差し上げてください」


「……わかった。ははは! そうするよ」




来た道を戻り、家についてそわそわと過ごす。



かかってきた電話をとると、彼女の声が響く。


約束をして、くだらない話をして、時間はあっという間に過ぎていく。


「ねえ、明日のデートには、さっきの眼鏡で来てね」


「そんなにこの前のメガネはダメだった?」



俺が尋ねると、彼女はフフフっと笑った。


綺麗な月が出ている。明日はきっと晴れだ。




「あの眼鏡、似合わないわ。やめなさいよ」





END

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マグネット 成宮まりい @marie-7g

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