第20話
サムに背を向けてローブを羽織って雪隠へ向かうと、ジワリと先端に僅かに滲んだ体液を見てため息をついた。
無邪気すぎるサムに疲れや憤りを感じることがないわけではない。
昔はこんな風には思わなかった。
サムがやることなすこと全てが新鮮で斬新で、その挙動に感動すらしていたのだ。
でもいつからだろうか、こんな風に溜息をつくことが多くなり、突拍子もない言動を見て見ぬ聞いて聞かぬフリをするようになったのは……イヤなのはサムではなくて、そんな自分が一番イヤだった。と、いうのが正解かもしれなかった。
雪隠から出て洗面台で顔を洗うと鏡の中に少し疲れたような顔をした自分が映りこむ。
ゲスト用にセットされたらしいアメニティの中から剃刀を取り出して少しだけ伸びた髭を剃り寝癖であちらこちらに向いた髪を石鹸で洗って柔らかなタオルで拭きながら部屋に戻るとベッドの横にきちんと洗濯され畳んである服に着替えた。
そんな俺を見ながら、まだベッドの中にいるサムは起きあがって悲しげにいった。
「……ごめん、ジェイ。怒ってる?」
「……別に」
「怒ってるじゃないか!」
「怒ってない」
「ごめん、ボク」
「サム、わかったから、オマエも服を着てくれ」
サムは俺を見上げるとしぶしぶといった様子で立ち上がった。
昼の光にサムの白い肌が浮かんだ。背中まで伸びた金色の髪をかきあげる。
俺が彫刻のような身体なら、サムは胸のないビーナスと言うところだろうか、白い肌と細い腰が本当に女のようだ。
俺の視線に気がつくと「ボクを触る?」と言いながら笑って見せた。
シニカルロマネスク 成宮まりい @marie-7g
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