第9話

野球のユニホームのクマを視線の高さに持ち上げて笑った。


「おそろい!」

「うん!」


サンタクロースのクマをそっと、日付けが止まったカレンダーとチャラい歩兄とちびっこだったシュウの写真の間に置いた。


「サンタクロース」

「うん、サンタ」

「……マイ」

「……」

「俺じゃ、ダメ? 兄ちゃんの代わりにはなれない?」

「シュウ」


シュウは写真を見ながら言った。


「バスケ部じゃなくて野球部だし、オシャレじゃないし坊主だし……歩じゃなくてシュウだけど」

「ダメじゃ……ない」

「え」

「代わりじゃないよ、代打じゃなくて、本命満塁ホームランで、シュウがいい」


シュウは歩兄の机から、ずっとめくられていないカレンダーを取った。


「この日、兄ちゃんの結婚式だったの覚えてる?」

「……うん」

「この日からずっと言えなくて後悔してたんだ。でも……もういらないよな」


シュウはテレくさそうに笑ってアタマをガシガシと撫でながら言った。


「サヨナラホームランだ」


動き出した私たちの時間に、優しさが積もる。


大嫌いだったクリスマスが、大好きな日になる。


どこかからジングルベルが聞こえる。



……Happy Merry Christmas

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幾星霜 成宮まりい @marie-7g

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