第8話

「……私……シュウが好きなんだ……だから」


涙が溢れた。


バカみたい。

バカみたい。

バカみたい、じゃなくて、本当にバカだ。


ずっと、歩兄が好きだと思っていた。

もちろん、最初はそうだった……やさしくて、かっこいい歩兄は本当に初恋だったけど、いつからか……シュウが好きだったんだ。


いつから?

わからない。


いつだろう?

わからない。


でも、土埃で汚れたユニホームで大きく手を振るシュウが……いつもそこにいた。


あの日、シュウが打ったボールがどんどん高くあがって真青な空に吸い込まれて行った時。

あの時にはもう、シュウに恋をしていたのかも知れない。


「……う」


涙があとからあとから湧いてきた。


カタン、と言う小さな音に驚いてグシャグシャの顔で振り向くと机にうつ伏せたままの姿勢で顔だけこちらを向いたシュウが微笑んでいた。


「何泣いてんだよ」

「……べ、別に」

「すっげえ、ブサイク」

「う、うるさいよ!」


シュウは体を起こして大きく伸びると私の頬に触れた。

マメで固くなった手の平にドキンとした。


子供の頃、記憶があるシュウの手は私の手よりも小さくて細くて弱かった。


「チアリーダーは、どんな時も笑顔で応援だろ?」

「今はチアしてないし」

「あはは! そっか……でも……マイは笑ってろ」

「……」

「泣くと、ブサイクだ」

「む、ムカつく!」

「あはは!」


その瞬間にぐいっと抱き寄せられた。


「俺は、ずっとマイが好きだよ」

「えっ」

「でも、兄ちゃんしか見てなかったから」

「……」

「でも、いっつも見ててくれて応援してくれて、もしかしたら? って少し勘違いして野球やってきたんだ、まぁ、その勘違いのお陰でここまできたんだけどさ」

「……シュウ」

「もし、これが……勘違いじゃなかったなら」


シュウは真っ赤になって深呼吸をすると、野球部揃いのスポーツバッグから小さな包みを取り出した。


「……ずっと俺を応援してほしい」


渡された小さな袋を開けると、チアリーダーのクマのぬいぐるみキーホルダーが出てきた。


「部活の帰りに買ったんだ。だからつまんないもんだけど」

「あ!」

「?」


私は慌てて廊下に出て玄関に置いた鞄から包みを出した。


「……これ」


シュウに渡すと二匹のクマが現れた。

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