第7話

リビングから賑やかな声が聞こえた。

起きないシュウに困りながら、リビングを覗くと歩兄と彼女が到着したところだった。


あの写真の頃みたいにチャラくもなく、さわやかな先生と言った風貌の歩兄は私に気がつく。


「お。マイ!」

「マイちゃん、こんばんは」

「……あ、いらっしゃい」


自分の家でもないのに妙な挨拶だ。


「シュウは?」

「あ、寝てる。いま、起こしてくる」

「うん、起こしてきてよ。重大発表あるから」


頬を染めた彼女の少し丸みを帯びたお腹を触りながら歩兄は笑った。


私の憧れの人は、もう人のもの。


この人の中に私はいない、いたとしても幼馴染みの女の子。ただそれだけ。


わかっていた事に改めて気がつく。


何度も再確認してることだけに、今更涙も出ないけれど……ずっと好きだった。と、ひと言えば昇華出来たのかもしれないと後悔しながらシュウの部屋に戻る。


まだ寝たままのシュウを横目で見て、隣の椅子に腰かける。

机の上に私もうつ伏せる。


「初恋はかなわない……か」


小さな独り言を言ってスタンドの写真に目をやる。


チャラい歩兄と、リトルリーグのユニホームを着たシュウの手にあるメダル。


「そういえば、この時……シュウのサヨナラホームランで優勝したんだっけ」


声が枯れるほど応援をして、野球部のママさんたちが作ってきたうちわを振りまくった。


「違う……この時だ……私、チアリーダーやりたいって思ったの」


この試合の少し前に見た歩兄の試合で点差がつまってスタンドが落胆する中、ずっと笑顔で応援し続けていたチアリーダーを見てドキドキしたんだ。


中学でチア部はもちろんなくて、グランドがよく見える美術室からいつもシュウを見てた。


高校に上がって、チアが出来ることを知って迷わず入部したんだ。

贖罪じゃない……シュウを応援したくて……だ。

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