第330話 最初

 おはようございます。ロウです。寒くなってきたよ。



 今日は結構、吹雪いている。今までも充分寒かったけれど、一段と寒さが厳しくなってきた。北に進んでいるからというよりは、十二月の半分を過ぎたからだろう。この辺りの魔物も、一月と二月は冬ごもりかな。


 ワニ人間の魔物、アリゲイルとは一度だけの遭遇で、あれ以降は出会っていない。他の魔物も巣から出てこないから、平和だ。途中でダンジョンへ向かう用に、ロコサイズの転移の魔法陣は設置しておいたよ。



 ゴーレム君の足取りに迷いがなくなってきた。思い出しながらといった感じはなく、すでに思い出した後なんだろう。


 本来使われるはずの街道を知らないので、遠回りなのか近道なのか分からないが、王都だった場所が見えてくる。


 今、俺達は山の頂上から王都を見下ろしている。逃げる二人は街道ではなく、道のない森を進み山に登ることで、追手をまこうとしたんだ。


 記録しておこうか。タイトルは『イラパサルク王国 王都サーサルク跡地』だ。



「ゴーレム君。あの場所でいいんだよね」

『うん、あの場所だよ。僕とあるじがいたのは、手前の壁側にある塔がくっついている建物。僕はあの塔の部分の地下にいたんだ』


「地下か。閉じ込められていたの?」

『閉じ込めるというよりは、隠していたのかな。今思うと、たぶん僕は秘密だったんだ。それに、最初から上手く歩けたわけじゃないから、散歩ができないのは変わらないかも』


 そこで不思議そうにムルルが聞く。


「ゴーレム君は、その中から出れば飛んでいけるよね?」

『うん。でも出ちゃダメって言われていたし、出たら何も触れなくてつまらなかったし、あるじとお話ができなくなるから嫌だったんだ。それと、逃げる頃には、歩けたし、走れたけど、外は怖い所だって教えられていたから、分からない所には行きたくなかった。逃げるまでの僕は、建物の外の世界を知らなかったんだ。だから、行きたい場所もなかったんだよ』


「そうだったんだ……」

『逃げる時は初めての外だし、ちょっと怖かったけれど、あるじが一緒のお出かけだから、楽しみでもあったよ。何日も前から準備して、あるじはいろいろと僕に教えてくれて。追われるのは怖かったけど、嬉しいこともいっぱいあったんだ』



 山を下りて門の方へ回り込む。王都跡地には魔物の気配がある。アリゲイル達だ。


 群れが大きく成り過ぎて、ダンジョンだけでは生活できなくて、周囲に散っているのかな? それとも群れのボス争いに敗れた集団なのか。どう考えても、ダンジョン周辺の方が生活は安定するよな。


 見えてきた壊れた門から王都跡地へ入る。ここでも戦いがあったようだね。内戦なのか、スタンピードなのか。今は近くに国がなさそうだけど、外交はしていたみたいだから、戦争の可能性もあるよね。


 昔は周囲に、どんな国があったんだろうか。そういう資料が残っているといいんだけどな。まあ、無くても困らないけど、知りたいよね。



 まずは、近場の気配から排除していく。王都跡地を調べるのに邪魔だからね。話し合えない種族は、基本的に狩るよ。


 武器や防具が充実しているのは、王都跡地で手に入れたというよりは、ダンジョンの物だな。


 戦っているのは、多くても五匹くらいの集団なので、今のところは先制攻撃で終わっている。建物の中にいる場合は、モッチル達に釣り出してもらって倒した。


 問題は、奥の王宮前にいる集団が百くらいはいることだね。ボスは王宮の中かな?


 広域殲滅魔法の烈火インフェルノで派手にやってしまいたい気持ちもあるけれど、戦利品を考えると定番の重力魔法と氷結魔法の組み合わせの方がいいかもとも思っている。


 そんな事をフェリナと相談していると、ムルルが声をかけてきた。


「あの、私も氷結魔法を頑張っているので、手伝えませんか?」

「あぁ、応援だけだったからかな? みんなのために応援以外もしたいんだね」


「はい。私も仲間です」

「ゴーレム君が護衛をしているから大丈夫か。後はウルと相談だな。ウル」


「グルゥ?」

「この後、奥の大きい集団と戦う時に、ムルルも一緒に氷結魔法で協力してみたいんだけど、どうかな?」


「グルゥ、ガウッ」

「先にムルルがやった後に、ウルが残りをやってくれるのか。それなら問題ないな。それじゃあ、ムルルも戦いに参加してみよう」


「あの、迷惑じゃないですよね。ちゃんと手伝いになりますか?」

「ウルの魔力消費が減るだろうから、負担は減ると思うよ。どのくらい減るかは、ムルルの頑張り次第だ。まあ、最初なんだから、少し手伝うくらいから始めよう。無理し過ぎないようにね。自分の身を守る魔力は残す事。これも練習だよ」


「魔力を残すんですか?」

「あぁ、そうだよ。普通はね。俺は参考にならないよ。すぐに回復できる人と自分を一緒にしない事。後は、フェリナとかは、魔法以外の戦い方ができるから、魔力が回復するまでの時間が稼げるし、普通に槍でも倒せるからね」


「そうですよ。それに私も、槍で倒せるといっても、普段は魔力を残しますよ。そういう作戦でないなら、残しましょう。そして、魔力を使ったら、なるべく回復させるようにすること。生き残るためには、大事なのよ」

「はい、分かりました。氷の盾の分を残しておきます」


「じゃあ、まとめるよ。俺が戦闘開始と言ったら激励をする。その後、重力魔法を俺が使ったら、ムルルの氷結魔法の出番だ。いいかな?」

「はい、大丈夫です。頑張ります」


 ムルルは少し緊張しているけれど、ゴーレム君もそばにいるし大丈夫だろう。



 王宮以外の場所を全て狩り終わり、最後に王宮前に向かう。


 先行して、俺とロコで偵察してみると、そこは広場になっていて、百近い数が集まっていた。


 どうやら、元々は食料を分け合っていたみたいだが、今は武器を持って警戒体制だ。王都跡地内の味方が減っていくのを察知した、スキル持ちがいるんだろうな。


 まあ、こっちとしては、集まってくれた方が助かるよ。



 俺はみんなと合流した後、大通りに出て、真ん中を堂々と歩き広場に向かう。向こうの反応を見るが、食料とか殺せとか聞こえてくる。


 一番近い魔物が動き出そうとするのを感じ取り、すぐさま大声効果の首飾りで強化して叫ぶと共に、威嚇と重圧を共鳴と連撃で強化した技、恐圧きょうあつ波動を使う。


「戦闘開始。殲滅する!」


 俺を中心とした波紋が広がるように、広場全体の動きが固まっていくのが見える。


 それとほぼ同時に、背後から激励の強化が応援の声と共に味方に広がる。


 そして俺は、広場全体に重力魔法を発動する。範囲が広いので二倍だ。


「重力魔法発動。ムルル、出番だ!」

「はい。魔法の吹雪、敵は全員こごえてこおりつけ!」


 ムルルがゴーレム君と共に俺の横に立ち、イメージを込めて魔法が発動された。


 ウルとは少し違う感じだ。氷というよりは、雪のイメージが強いのか、色がウルの魔法より白っぽい。渦巻く吹雪といった感じで敵を包み込む。


 範囲は小さいがいい感じだ。さすがに全力でやっても、広場全体は無理だろうね。威力に関しては、元々寒い日なのも後押しして、敵を凍らせることが出来ている。


 そこで、ウルが追加の氷結魔法を発動。ムルルの魔法範囲だけ避けて、器用に残りの範囲を凍らせていく。


 そこで響き渡る敵側の咆哮と激励による強化の波。精霊視で波の発生源を確認すると、王宮から出てきた大きな個体。ボスだろうな。


 十五階層のボスよりは強そうだ。ダンジョンからあふれ出たばかりではないんだろう。ただ、六十階層のボスほどではないね。


 王宮に近い魔物が強化されて、少しの間は耐えたみたいだが、ウルの力の前では誤差だ。ボスも一緒に凍らせて、戦いは終わった。


 寒い地域でのウルは最強だな。ムルルの初陣ういじんも、ここで良かったな。


「ムルル、初めてだっただろ。どうだった?」

「ちょっと怖くなりました。魔法って凄いんですね」


「うん。特に、この寒い地域での氷結魔法は強いよ。ただ、今のムルルは攻撃にかたよっているから気を付けてね。防御や回避ができないと危ないから」

「はい。気を付けます」


「そう言えば、ムルルは護身以上に戦い方を身に付けるの? まだ考え中?」

「まだ考え中です。回復担当にもまだまだですし、商人の勉強もありますし、文字の勉強が大変なので、中途半端になりそうです」


「そうだね。まずは、焦らずに文字と計算かな。薬作りは文字が読めなくても出来るけど、文字を読めると学びやすくなるからね。その後でもいいから、護身をやろう。本格的に戦うかは、護身を身に付けた後に改めて考えようか」

「はい。そうします」


 ムルルは、絵描きとしての仕事もあるから大変だよな。絵描き部屋の管理で整理スキルや整備スキルが身に付けば、管理師ジョブが増えて勉強の方も進みが早くなると思う。コツコツと頑張ってもらおう。焦らせないように気を付けないとな。



 広場では装備ごと魔物を回収したら、箱庭に帰って昼食だな。


 これ以上の戦闘はないはずなので、そのまま牧場組は箱庭で過ごしてもらう。子供が生まれたばかりのブレイザは、特にその方がいいだろう。


 午後、俺達の方は王都跡地の探索に向かう。まずは、目的地である研究所だ。



 ゴーレム君にとって最初の記憶の場所。ここで生まれたのかも不明だ。工房主の故郷についても知りたいけれど、ゴーレム君についても知りたいよな。

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