回想 父親の過去

第111話

学生服の上にインバネスコートを羽織った学生達が、下校していた。


しーんと静まり返った1室ー図書室の本棚の前で、黒色の学生服を着た青年が本を読んでいた。


「ー先輩っ!」


九条くじょう 秀也しゅうやは、読みかけの本から声のした方へと視線を動かした。


「…加納…」


詰め襟をキチッとしめ、ニッと笑顔で笑う加納かのう 隆一りゅういちが立っていた。


「まーた、難しい本読んでるんですか?」


「……」


何事もなかったように秀也は、本へと視線を戻し、読み始める。


「ほんと…本が好きですよね」


「……」


秀也は話しかけられているが気にせず、本を読み続けている。


「先輩…無視しないで下さいっ…」


もしっも~しと、隆一は秀也の顔の前で手をひらひらさせた。


「……」


「眉間にシワよってますよ…。九条先輩は男前なんだから、もう少し愛想よくしてたらいいのに…。そうすれば、今よりもっと女性の方々にモテるのに…もったいないな…」


秀也は、本から目を離さずに言った。


「女性にモテたいから、愛想よくしようと思わない。眉間にシワをよせているつもりもない。元々、こういう顔だ」


しれっと、言いきった。


「ほらっ、ここです! ここっ!!」


隆一は秀也の眉間を指先で突っついた。

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