第110話

「…僕の…せい、ですね」


「えっ…」


「僕が結婚したいと…父にお願いしたので」 


「…どうして…? 今の九条家と結婚をしても、加納家には何の得もなかったはずです。なのに…」


「…得、ですか…」


結婚とは、そういうものだとさゆりは思っていた。


九条家がこれから先も安泰で、存在してゆくことを父親は強く望んでいた。


小さい頃からずっと…そう、言われて育ってきたのだ。


加納家に嫁ぎ、九条家は安泰になるかもしれないが…このまま経営難が続いたら…共倒れになってしまう可能性もある…。


そのような危険があると分かっていながら…婚礼を進めたのは何故だろう…と、さゆりは思っていた。

父親からは「さゆりを気に入ったから…」と、聞かされたが…。

それだけの理由で、婚礼の決めてになるとは…到底考えられなかった…。


「……」


隼一は、黙り込んでしまった。


「隼一さまっ! 失礼なことを…気を悪くされましたよね…? 申し訳ありませんっ」


さやりは勢いよく立ち上がり、隼一に深々と頭を下げた。


「さゆりさんっ!?」


驚き、隼一も立ち上がる。慌てながら、さゆりに声をかける。


「頭を上げて下さいっ! さゆりさんが気にされるようなことは…気を悪くした訳ではないですよ。むしろ…さゆりさんの思いを聞けて、良かった…」


「…隼一さま…」


「…とりあえず、座りませんか?」


隼一はさゆりに長椅子に座るよう促した。


「少々、話は長くなりますが…聞いてくれますか?」


コクリと、さゆりは頷いた。


「…これは、父が話してくれたことです」


隼一はことの経緯を1つ、1つ話してくれたー…。

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