第109話

「ここにはよく?」


「…来れる時に…」


うーんっと、隼一は伸びをした。


「いいですよね。静かで…人目につきにくい場所で。僕もたまにここに来て、1人でのんびり過ごしているんですよ」


「…隼一さまも?」


コクッと隼一は頷いた。


「一緒ですね」


隼一は照れくさそうに笑った。


風が優しく通り抜け、2人の髪の毛や服の裾をなびかせる。

草木も微かな音を立てながら、揺れた。


「…あっ…あのっ!」


「何か?」


隼一は不思議そうにさゆりを見た。

さゆりは言いにくそうに…小さな声で呟いた…。


「さっ…さっきの…」


「さっき…?」


眉を寄せ、隼一は考える。


「あぁ…。どうしてって…顔してますよっていう言葉を気にされてますか?」


「…はい…」


「ずっと、そういう顔をされているので…」


「ずっと…?」


「はい。笑顔で笑っているけど…無理をしている…。そんな顔をずっとされていますよ」


バレバレだったんだ…。


さゆりは更に、隼一に対して気まずさを感じた。


「まぁ…無理もないですよね」


瞳を伏せがちに隼一は呟いた。


想いを寄せていた人との別れ。

傷を癒すことなく、早急に行われた婚礼。

住み慣れた土地からの引っ越し。

知り合いが1人もおらず、慣れない土地での新しい家族との生活…。


さゆりの心情を思うと…隼一の胸は苦しくなった…。

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