第107話

「…隼…一…さま…」


濃い紺色の西洋の服を着た隼一が立っていた。


「驚かせてしまいましたね…。失礼…」


「いえっ…」


…気まずい…。

見られた…。


もう、手遅れだ…と思いながら、さゆりは慌てて微笑んだ。


「隣いいですか?」


隼一はさゆりが座っている長椅子を指さす。


「はい」


さゆりは隼一が座れるように間を空けた。


「この場所…よく見つけましたね」


「えっ…」


「奥の方にあるし…草木がうっそうと生い茂っているので、まさか…建物があるとは思いませんよね。僕は生まれた時からここに住んでいるけど…小さい頃はこの場所が少し怖くて…近寄れなかったんです」


少し恥ずかしそうに、苦笑いを浮かべながら隼一は話を続けた。


「11歳を過ぎた頃だったかな…細道があることに気づいて、道を辿りながら歩きました。すると…東屋を見つけたんです。両親からは聞いてはいたけど…怖くて、近寄れなかったから…本当にあるとは思ってなかったんです」


遠き日を思い出した隼一は、懐かしそうに瞳を細めた。


「一応、加納家の敷地内は手入れされているんですけど…この場所はすごく奥の方にあり、あまり人目につかないので後回しにされることが多くて…。いざ、手入れをしようとしても、どこから手入れをしたらいいのか…困るみたいです」


少し困った表情を浮かべ、言った。

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