第106話
決して加納家に不満や居心地の悪さを感じているわけではなかった。
さゆりにとって、有り難いくらい良くしてもらっている。
隼一の両親はいつも優しく、嫁というよりも娘が出来たような感じで接してくれていた。
隼一は、さゆりが不自由ないように…ここでの生活を楽しんでもらえるように何かと気にかけてくれていた。
隼一の執事ー小暮は隼一に仕えながらもさゆりに対しても親切、丁寧に接してくれた。
他の加納家に仕えている人達も自分達の与えられている仕事をそつなくこなし、適度な距離感でさゆりの身の回りのことをしてくれていた。
自室もあるというのに…それでも。
1人になりたい…。
1人になれる場所をさゆりは求めていた。
他の人に言えば、きっと…何てわがままで、贅沢なことを…と、怒られてしまいそうだ。
加納家の人達…特に隼一に対して後ろめたさがあった…。
今だに、さゆりの心には孝直を想う気持ちが消えず…残っていた…。
いい加減、忘れないと…。
ワンピースのポケットにこっそりと潜ませていたしおりをスカートの布越しに触れた…。
「ふぅ…」
「どうして…と、いう顔をしていますよ」
何度目か分からない、ため息をついた直後…。
不意に声をかけられ、さゆりはビクッと身を縮めた。
恐る恐る声のした方へと視線を向ける。
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