第57話

「心配かけて、ごめん。ありがとう。クッキー貰うよ」


「うん」


孝直は手を伸ばし、クッキーを口へと運ぶ。


口の中に入れるとホロリッと砕け、優しい甘さが広がった。


「…美味しい…」


不安そうに孝直を見つめていたさゆりの顔がほころぶ。


「良かった~」


「初めて食べたよ」


「初めて焼いたの」


「すごいな~」


それから、二人はあわいのない話をした。


限られた時間の中で…。


「そろそろ行かないと…今日は、ありがとう。クッキーご馳走さまでした」


にこりと孝直は笑っていた。


「それじゃ…」


「まっ、待って!」


去り際、さゆりは孝直を呼び止めた。


孝直は、何だろう?と、いう表情を浮かべ、振り向く。


「何?」


「…あっ…」


…ほらっ、早く言わなくちゃっ!


「…っ…」


そう、思うものの…なかなか言葉が出てこないっ!


言いたいのにっ…言えないっ…。もどかしいっ!


「…さゆり?」


言葉なく、哀しげな表情表情で見つめるさゆりに孝直は優しく、声をかけた。


「どうかした?」


「……」


さゆりは、キュッと唇を噛みしめて、声を振り絞った。

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