第56話

そんな、ある日…。


「…何かあったの…?」


「えっ…。どういう意味?」


「…元気がなさそうに見えるの…。逢う度に浮かない顔してる…」


2人並んで、教会の長椅子に座っていると、心配そうに孝直の顔をさゆりが覗き込んで言った。


「…ちょっと、気になってて…」 


…いけないっ…。


孝直は、ハッとする。


「話したくなかったら、話さなくていいから…」


「…さゆり」


「お節介かもしれないけど…少しでも元気になってほしくて、クッキーを焼いて来たの」


さゆりは傍らに置いていた小さな正方形の缶の蓋を開けて、孝直に差し出した。

そこには、1口サイズの薄茶色の少し厚みのある丸い形の物が数枚入っていた。


「…クッ、キー…?」


聞いたことのない言葉だった。

さゆりは小さく頷く。


「外国のお菓子なの」


「外国…? お菓子…?」


孝直は初めて目にした。


「元気がない時に甘い物を食べたら、元気になるかな~って。私はそうなんだけど…そうでなかったら、ごめんなさいっ」


さゆりは戸惑いながら言った。


…気をつけていたのに…結局、表情に出てしまっていたのか…。


落ち込む気持ちを何とか心の中に閉じ込め、さゆりが安心出来るように微笑みを浮かべた。

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