第55話

それから…日々はゆっくりと過ぎていったー…。


孝直とさゆりは以前よりもさらに会うことが少なくなった。


孝直の心はぐちゃぐちゃのままだった…。


さゆりが華族と言うことで頭では、叶わぬ恋だと分かっているのに…ふとした瞬間…さゆりのことを想っている自分がいて、諦めることが出来ず…想いは募る一方だった。


そんなぐちゃぐちゃな気持ちが表情や態度に出てしまいそうで…正直、さゆりに会うのが怖かった…。


それでも、極端に会わない…と、いうのも何かあったのではないかと、逆に不安感を抱かせ、心配させてしまうのではないかと思い、教会へと足を運んでいた。足取りはとても重い…。


さゆりは、自分の身勝手な行いで九条家に仕えている人達が、父から怒られぬよう、父親の機嫌を損ねないように気を使いながら、教会へと通っていた。


やはり、父親の目が厳しくなったことで、思うように屋敷から抜け出すことが出来ずにいた。

例え、屋敷から抜け出せたとしても、とても短い限られた時間しかなかった…。


自分が父親の言いつけ通り、九条家の人間として恥ずかしくない行いや立ち振舞いをすることで、縁談の話もさゆりの意見を聞いて…想う人、と…。そう、考えてくれるかもしれない…と、淡い期待を抱きながら…。

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