第54話

畑仕事のきりのいい頃合いを見て、少しの合間抜け出してきた。

大工仕事が終わってからだと…大体同じような時間帯に教会に行くようになってしまう。それでは、さゆりと会ってしまう確率が高くなる気がした。それだけは避けたかった。


昼を過ぎた頃。太陽の日差しが頭上から降り注ぐ。


この時間に来るのは初めてだ…。


孝直が教会に入ろうとした瞬間…。


「孝直さん」


「……!?」


さゆりに声をかけられた。

ゆっくりと振り返る。


「さゆり…」


「今日は、早めにお仕事終わったの?」


「えっ…あっ…」


孝直はたじろぐ。


「いつもより、長くいられる?」


「むっ無理なんだ」


「…そう」


嬉しそうに言ったりゆりの表情が一瞬で、哀しげな表情になった。


孝直の胸がズキッと痛む。


「…悪いっ…」


「ううん。気にしないで。いつもより、早い時間帯だったから…どうかなって思って…」


挙動不審…。


その言葉がぴったり当てはまる程、孝直は動揺していた。


しかし、さゆりは何も疑問も抱くことなく、いつもと変わらず…接してくれていた。

孝直はさらに、ズキッと胸が痛むのを感じた。


…ごめん…。


「じゃ、本返してくるよ」


「うん」


コクリとさゆりは、頷く。


孝直は、十字架を正面にして右側の扉へと急いだ。


本を返す時はいつも神父にお礼を言って、「また、借ります」と一言伝えてから2階に上がっている。


今日は、神父には申し訳ないが…

「急いでいるので、2階に本を戻してもらえませんか?」と、頼もう。

とても自分勝手なことだが…。


もう一度、さゆりに会う勇気が、孝直にはなかった…。

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