第53話
ギィィ…。
今日は一段と重く感じる教会の扉を開いた。
…いない…。
孝直は中を見回し、さゆりがいないことに少しホッとする。
さゆりが華族であることを知ってから、どんな顔をして会えばいいのか…分からずにいた。
知られたくなかったのか…元々言う気がなかったのか…分からないが、本人が直接言わない以上…知らないフリをして会うべきか…それとも、さゆりを不快にさせないように距離を置いて華族の者に対して失礼のない態度で接した方がいいのか…悩んでいた。
他にも孝直を悩ませることはあったが…それよりも、神父から借りっぱなしになっている本を早く返すことが先決だと思い、複雑な気持ちを抱えたまま、きょにやって来たのだった。
さっさと本を返して、帰ろう…。
当分…本を借りるのはやめよう…。
気持ちがぐちゃぐちゃだ…。
ゆっくり時間を作り、気持ちの整理が必要だと感じていた。
今日はさゆりと会ったことのない時間帯をわざわざ選んだ。
丁度、大工仕事が休みの日だった。けれど、孝直の休日はゆっくり自分のために使うのではなく、時間があれば実家の手伝いをしに、戻っていた。少しでも両親や弟と妹達の手助けになれば…と思ってのことだった。
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