第52話

「ーたっく…」


半ば呆れながら、新はぼやいた。


新と孝直は早々に酔い潰れてしまった雄助を自宅まで送り、家路へと向かっていたのだった。


「いくら嬉しいからって…酔い潰れるまで呑むなっ…て」


ぶつぶつ文句を言っているが…世話焼き女房のように、酔い潰れた雄助を献身的に介抱し、自宅まできちんと送り届ける新の優しさにいつも凄いな…と、思う孝直だった。


「…どーするんだ?」


「えっ?」


目と鼻の先に新の自宅が近くなった頃…それまで他愛のない話をしていた新が少し言いにくそうに言葉を紡いだ。


「俺はさっ、二人が上手くいってくれたら…幸せになったらいいと思うよ。けど…厳しいことを言って悪いが…世間はきっと、それを許さない…。身分の差があまりにもありすぎる…」


「……」


「お互い傷つかないっ…」


「大丈夫ですよ」


孝直は新の言葉を遮った。


「えっ…」


「傷つくも何も…ただ、教会で会って少し話をする程度…それだけです」


嘘だっ…。

俺は、嘘つきだっ…!


「それに…はなから相手にされるわけないじゃないですかっ!」


「…孝…直…」


「じゃ、失礼します。おやすみなさい」


気がつけば、新の自宅前だった。

孝直は、新に挨拶をして、足早に自宅を目指した。


手元の灯りだけでは、孝直がどんな表情をしていたのか、分からず…新は孝直のことが気になった。


新と別れてから、しばらくすると…孝直は歩く早さを緩めた。

足取りが急に重く感じる…。


…九条…家、か…。


小さく呟く。

複雑な気持ちが孝直の心をかき乱していたー…。

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